ホクロやイボ・シミの治療などは美肌レーザーと同時にも受けられます
お肌の色むらやいわゆるシミそばかすなどのメラニン過剰による色素性疾患に対するレーザー照射の基本は、加熱破壊したい黒い細胞や組織に的確にエネルギー(熱や衝撃波)を伝え、温存したい健康な細胞や線維は冷却してダメージを防ぐことです。
盛り上がった病変など色と無関係に細胞の集団を高温にして破壊するには、レーザー光線のビーム径を針のように絞って点状に照射し、周辺には熱の被害が及ばないようにします。
また、メラニンなど特定の色だけに吸収されるレーザーは超短時間照射することで、その色の細胞だけを加熱し周囲への熱拡散を防ぎます。
細胞は死ぬがコラーゲン線維は破壊されない条件で治療できれば、皮膚の基本的構造を保ったまま色のある細胞だけを効率的に取り除けます。盛り上がったホクロやイボなど皮膚の構造自体を破壊しなければ取れない場合は、陥凹や赤みなどができるだけ早く回復するように熱破壊する深さや範囲を考慮して照射する必要があります。
コラム1:
光や熱ではなく、冷熱(超低温による凍結)や超高圧を用いて選択的に黒いあざの細胞を破壊する治療法もあります。レーザー治療が広く行われる前に普及していた「凍結療法」では、適切な方法を選択すれば(超低温の液体窒素ではなくマイルドに冷却できるドライアイスを使うなど)凍結したコラーゲンを穏やかに解凍することであざの細胞だけを選択的に破壊することができました。しかし現在ではそうした技術をお持ちの医師はほぼ全て引退してしまいました。
現代では、あざのある皮膚に超高圧をかけてあざの細胞だけを押しつぶす治療が現在京都大学教授である森本尚樹先生らによって実用化され、全身性の大きなアザの手術などに応用されています。皮膚を一旦切り取ってから機械処理して細胞を全滅させ、細胞以外の成分を戻す必要があるため適切な設備のある手術室でしか行うことはできませんが、レーザーでは治療不可能な深いアザなどに今後応用されていくと思います。
(図は日本医療研究開発機構のニュースページから一部を改変して引用)
ほくろ・イボなどをレーザーで削りとるには、通常、CO2レーザー(炭酸ガスレーザー)を使います。
炭酸ガスレーザーは、しみを取るルビーレーザーやアレキサンドライトレーザーなどと違って、メラニン色素の黒い色にだけに反応するといった選択性を持ちません。水に吸収されて熱を発し、細胞を蒸発させてしまう(蒸散といいます)電気メスのようなレーザーです。
それは、ほくろやイボの細胞には色のないものがあり、色だけに反応するレーザーでは取れないからです。
CO2レーザーは1963年以来様々な分野で使われた非常に有用なレーザーです。
連続発振ができビームを細く絞って出血の少ない切開に用いることができるため、形成外科分野では主にレーザーメスとして使用されることが多いのですが、大江橋クリニックではウルトラパルスモードを主に使いイボや黒子の蒸散に用いています。
ピークパワーの高いウルトラパルスをさらに0.1秒ごとに断続的に用いて、直径0.1ミリ程度に絞った細いビームで点状に皮膚をけずりとっていく使い方をしています。
盛り上がりのないシミなどのメラニン色素を正常な細胞を傷めずに破壊するには、瞬間的に強い光や衝撃波を与える必要があり、それなりの痛みを伴います。痛みは人によって感じ方がかなり違い、客観的な計測法もないので、ご本人に痛いかどうか聞く以外に程度を知る方法がありません。
1億分の数秒程度のQスイッチルビーレーザーとさらに短いピコ秒レベルのレーザーでは痛みの感覚も異なります。1発だけだとチクッとかあツッというぐらいで済んでしまいますが、連続すると耐え難いということもあります。私(院長)は比較的そうした苦痛に強いということと前もってある程度の予測をしていることもあって、自分に照射して試すときは無麻酔で照射します。痛いけれど耐えられないこともないという感じです。
患者さんによっても、私は平気だから麻酔なしでという方もあれば、シール麻酔(ペンレス)程度では耐えられないという方もいます。
痛みがあるとどうしても体を動かしてしまうことがあるので、顔、特に目の近くはきちんと麻酔した方がよく、麻酔の注射をするのが良いと思います。注射も痛いですが、その後完全に無痛になるので済んでしまえばお互いに安心して治療できます。麻酔後は多少腫れ、しばらく皮膚感覚がなくなるので食事などの時に気をつける必要がありますが、通常は術後も特に不都合なくお過ごしいただけます。
熱緩和理論に基づく選択的熱破壊理論はレーザー治療を一変させましたが、理論は理論であり現実世界との無視できない乖離があります。真空中の黒体の真球にエネルギーを蓄積させるのと、周囲に光を強く反射屈折させるコラーゲン線維やさまざまな形や色をした水の袋のような細胞がたくさん存在し、絶えず周囲を流れる低温の血液によって冷却され続けているメラニン色素の集団とでは、条件の複雑さが違いすぎます。
適切な強さで照射したつもりでもメラニンの少ない細胞は生き残りますし、逆に正常な皮膚に見える部分が過剰に破壊されてしまうこともあります。理想は白い肌に黒いシミですが、実際には日焼けした浅黒い肌に出来立ての薄いシミが、という場合が多いものです。そのシミを周辺部までキレイに取るのは難しいものです。
その隙間を埋めるのが照射技術です。理論通りに当てたはずなのに効果が出なかったり火傷したりという現場の少なからぬトラブルの多くは、間違った照射法、照射規定を守らなかったから、というよりも経験値が少ないスタッフによる、肌質に合わない「規定通りの照射」によって起こると思います。
コラム2: 専門家の勘
国立病院時代、整形外科で行う人工関節置換術のお手伝いに入ったことがあります。チタン製の人工関節は非常に高額で、厳密に滅菌されていますから開封したらサイズ違いだから返品などというわけにはいきません。ですから事前に撮影したレントゲン写真をもとに専用の物差しで骨の大きさを正確に計測します。ご存じかどうかレントゲン写真は実際の人体より拡大して写りますから、拡大率をもとに作った専用の物差しを使わないといけないのですが、こうして測ったサイズをもとに専用のドリルで骨に穴を開けいざ人工関節をそれに嵌め込もうとすると合わない!ということが起こります。
ドリルの径も人工関節に合わせてあるので合わないはずがないのですがなぜか合わない。すると執刀医は慌てる様子もなく、ワンサイズ大きなドリルで大腿骨の一部を軽くひと削りし、もう一度嵌め込むと今度はぴたりと合いました。あんなに厳密に計測したのは一体何だったんだろうと思いました。でも現実には計測値にこだわって力づくで嵌めようとしたら骨が割れたりしたかもしれない。実は、電動ドリルで削ると熱が発生するためほんの少しですが削っている間骨は膨張するのですね。専門医によるちょっとした微調整が成功の秘訣なのだと思った経験でした。