大江橋クリニックのレーザー脱毛
医師が行う安心照射
過去100年以上にわたって、エステサロンなどで行われる、腋や脚のむだ毛を減少させる「脱毛治療」は、ワックスなどを塗って剥がしとる「一時的な脱毛」か、細い針電極を毛穴に差し込んで通電する、いわゆる「針脱毛」によって行なわれてきました。
ワックス脱毛はもちろん1ヶ月程度の効果しかありませんし、「針脱毛」は毛を一本一本処理していくため、時間も費用もかかり、痛みも強く、あまり一般的なものではありませんでした。
一方で、肌に黒いメラニン色素をもった「あざ」の治療に、約40年近く前からレーザーが使用されるようになり、治療効果が上がるとともに、治療を繰り返した場所は肌の色が白くなるだけでなく、黒い毛が生えなくなることが知られるようになりました。
1980年代に入り、レーザーがメラニン色素を含んだ細胞を加熱変性させる仕組みが理論的に解明され、ついに「皮膚を傷めることなく毛根を加熱して毛を脱落させる」条件が明らかになると、その理論に基づいてアメリカで脱毛専用のレーザー機器が開発され、1997年にはその第1号機が日本に輸入されました。
大江橋クリニックの院長は、その当時ちょうどヨーロッパに留学中で、日本におけるレーザー脱毛の黎明に立ち会うことはできなかったのですが、翌1998年には帰国し、日本で最初に医療用レーザー脱毛機LPIR(サイノシュアー社製ロングパルスアレキサンドライトレーザー)を多数輸入し治療を開始した大城クリニックに入植して、1998年から1999年にかけてレーザー脱毛の初診担当医として勤務していました。
当時はまだレーザー脱毛の効果や限界・長期成績には分からないことが多く、出力エネルギーやパルス幅、冷却方法や治療間隔なども、いわば手探りの状態ながら、針脱毛に比べて痛くない、短期間に完了する脱毛治療として急速にシェアを伸ばし、数年のうちに針脱毛に取って代わっていきました。
「針脱毛」の世界では、エステで主流だった通常の電気針による電気分解法(通電による水の電気分解でアルカリを発生することにより細胞を変性させるので時間が数秒かかる)から、より安全で短時間の通電でも効果がある高周波による絶縁針脱毛(高周波による短時間の加熱で効率が良い)に移行するとともに、脱毛は「医療行為」であるという厚生省(現・厚生労働省)の通知をもとに「美容医療」が「エステ」が独占してきた「脱毛」という一千億円市場に参入しようとしている時期でした。
医師が機械を独占しているレーザー脱毛という新たな強敵の出現に、エステ業界はこぞって反発し、「レーザー脱毛は永久脱毛ではない」というキャンペーンを張りました。それに対し、レーザー脱毛が今後の脱毛治療の主流になると考えた医療側は「レーザー脱毛と電気針脱毛の効果は変わらない」と反発しました。(勝っているではなく変わらないとしたのは、当時の医学脱毛学会に属する医療機関は主に小林式絶縁針(医療機関専用で皮膚を火傷させないように絶縁コーティングされており、小林医師がロット番号を管理して、エステには販売されなかった)による針脱毛を主流としていたからです。)この過程で、では「永久脱毛」とは何か、という問題が浮上し、永久脱毛の再定義が行なわれるとともに、少なくとも医療としては、あやふやな「永久脱毛」という言葉を使わず、医療脱毛、医学脱毛と呼ぼう、という合意が形成されました。
1999年には、日本レーザー医学会と日本レーザー治療学会合同で「医療レーザー脱毛」に関する公開討論会が開かれました。(右はその時のパンフレットの表紙。当院の院長はこの時の討論会の事務局長でした)
この討論会で、少なくとも医療においては「脱毛」は「永久かどうか」にこだわるのではなく「人体に悪影響を及ぼさない」ものであるべきだという見地から、レーザー脱毛は「医療脱毛」であると宣言され(ということは医療者でないものがレーザー脱毛を行なうべきでないという意味も含みます)、脱毛用レーザー機器は医師が取り扱う医療機器であり、脱毛は医療行為であるという再確認がなされたのでした。
こうして、レーザーメーカーは医療機関でないもの(エステなど)にはレーザー脱毛機を売らないで貰いたい、という要求が医療界から出され、しばらくは「レーザー脱毛」は医療機関の独占となったのですが、その後レーザー類似機器(IPLやラジオ波を用いたりそれらを組み合わせた機器)が次々と開発され、最初は遠慮がちに高周波脱毛とか光脱毛などと宣伝していたエステ業界も、今では堂々とレーザー機器を用いて脱毛を行なうようになっています。
その背景には、美容医療機関が自己の傘下に「メディカルエステ」を抱え、医療機関が購入した機器をエステで使わせたり無資格者に脱毛させる、といった法的にどうかと思われる事例もあったようです。今でも「電気針やレーザーを用いた脱毛行為は医療行為であるから医師免許のないものが行なってはならない」という通知は生きているものの、実際にはエステなどで無資格者が行なっても逮捕起訴されるということはほとんどなくなっています。(やけどを負わせたりすれば警察が入るようですが)
一方で、永久脱毛という言葉はほとんど姿を消しました。これについてはエステ業界もほっとしていることでしょう。永久、という言葉が与えた誤解のせいで、永久保障を掲げ延々と無料治療を続ける羽目に陥っていたエステもあったのですが、最近ではほとんどの脱毛施設が回数制限や期間制限を設け、「生涯無毛を保障する」かのような宣伝をするところは滅多になくなりました。
レーザーはある種の物質(ルビー、アレキサンドライト、ガーネットなどの宝石類や半導体、色素やガスなどレーザー媒質と呼ばれるもの)に高いエネルギーを与えたときに発生する均質な光で、その光の束に含まれる個々の光は、どの部分をとっても全く同じ性質を持っています。(IPLなどのフラッシュランプが幅広い波長の光の不均一な混合物であるのと大きく違う点が、この均質性です。コヒーレンスが高いと表現されます。)
ある波長をもったレーザーは、それぞれ特定の物質によく吸収されます。吸収されるとは、エネルギーをその物質に与え、その結果物質が加熱されることを意味します。レーザー脱毛に使われるレーザー光は、メラニンに吸収されるものが選ばれています。従って、メラニンを含む細胞は照射により加熱されますが、メラニンを含まない細胞は加熱されません。
つまり、黒い色素をもった細胞は短時間のレーザー照射によって急速に加熱破壊されますが、その周辺にある色を持たない細胞は、照射条件によって黒い細胞が周辺に熱をどの程度伝えるかで運命が決まります。もし極めて短時間に強いエネルギーで加熱されると、周辺に熱が伝わる時間的余裕がなく、黒い細胞だけが極めて急速に加熱されて爆発的に破壊されます。その際、溢れ出すエネルギーの量に依存して、周辺の細胞もある程度巻き添えを食って破壊されあるいは変性することになります。
十分時間をかけてゆっくりと加熱されると、熱は周囲に流れ出し、周囲の細胞も均等に暖まっていきます。周囲に熱が伝わり始めるまでのタイムラグは黒い細胞(集団)の体積によって計算することができます。これが有名な熱緩和理論です。
この理論により、皮膚表面にある、細かいメラニン顆粒を少しだけもつ細胞は(メラニン顆粒のエネルギー吸収により)比較的ゆっくりと周囲に熱を拡散しながら加熱されるが、毛根のような黒く大きな細胞集団にとっては熱の逃げ場がないような一定の時間(パルス幅)を設定することができ、その程度の時間(20〜50分の1秒程度)で光を照射することにより周辺の細胞を死滅させずに脱毛を起こすことができます。こうした100分の1秒を超える(レーザーの世界では)長い時間で光を照射するレーザーを「ロングパルスレーザー」と呼んでいます。
実際には、毛の太さとメラニンの量で反応が変わってきますが、このようにして皮膚の中に埋もれた毛根部分を選択的に加熱し、毛を燃やすとともに、その周辺にある「毛包幹細胞」にもある程度熱を加えて変性させ、次世代の毛が勢いよく成長するのを妨げようとするのが、レーザー脱毛の理論的背景です。
したがって、毛は黒くなければ反応しませんし、あまり細い毛は太い毛とは照射条件を変えないと反応させることができません。ある条件で照射したときには、その条件に合致する太さ、黒さの毛だけが選択的に脱毛されます。太すぎる毛も細すぎる毛も脱毛されません。またいわゆる産毛(透明に近い細い毛)はメラニン色素が少なすぎるため通常の方法では脱毛できません。
レーザー脱毛が永久かどうかで争われていた当時、エステ業界ではワックスや除毛クリームなどを使って一時的に体毛を減少させる「一時脱毛」に対して、電気で毛根を破壊する方法を「永久脱毛」と呼びました。これはいわばキャッチフレーズであって、「永久」とは「一生涯」というような意味ではありませんでした。
もともと「永久脱毛」はアメリカのエステの団体である脱毛協会が定義したpermanent epilationという言葉を直訳したものです。permanentには文字通りの「永久」という意味もありますが、この場合は「長持ちする」「(数日で元に戻るような)一時的なものではない」という程度の意味だったでしょう。(美容関係でいえばpermanent wave「パーマ」は、ウェーブを長持ちさせる技術のことであって「永久巻毛」と訳さなかったのは賢明でした)
実際に「永久脱毛」の定義を見れば「脱毛施術を繰り返して脱毛が完了してから、1ヶ月後に生えてくる毛が施術前の20%以下であれば」permanentと言ってよいことになっていました。これは今でも「永久脱毛」の定義として用いられています。1ヶ月後に20%ですから、半年後に元に戻ったとしても「永久脱毛」はウソではないのです。
ところが「permanent」というキャッチフレーズを文字通り「永久」と考えた一部の人々は、実際とのギャップに苦しむことになっていったのです。パーマが1ヶ月でとれたからといって、美容院に返金を求めたりもう一度無料でかけさせたりするひとはまずいないでしょうが、「永久脱毛」の場合はそうしたトラブルが続発しました。かといって「うちの施術は永久ではない」と言ったとたんにお客さんは電話を切ってしまう。そこで、苦情を言う人には何年経っても無料で施術を続けるという、どちらにとっても面白くない状態が延々と続いていたのでした。
そこへレーザー脱毛の登場です。どちらかといえば高額で時間のかかる、従ってある特定の人々しか相手にしていなかった「脱毛業界」にとって、短時間で広範囲の脱毛を、しかも比較的リーズナブルな料金で提供する「レーザー脱毛」は、脅威の新技術でした。針脱毛を主流とするエステ業界や、これから絶縁針の安全性を強調して市場に参入しシェアを広げたいと考えていた「医学脱毛」「医療脱毛」業界にとっては大変な競争相手でした。
そこで用いられたのが「レーザーは永久脱毛ではない」という宣伝でした。実際、上の項目でも書いたように、レーザー脱毛にはいろいろな条件設定が必要で、1本ずつ抜いて「ほら今日は520本抜けました」などという脱毛方法に比べ、どの程度効果があるのか見極めにくいものでした。しかも100年の歴史がある針脱毛に比べ数年の実績しかないわけですから「将来」についてはあくまで予測でしかなく、予測ですからなんとでもいえるわけです。
1回のレーザー脱毛ではその条件にあった一部の毛しか抜けません。その数ヶ月後の写真と「今生えている毛を全部抜いた」針脱毛の写真を比べれば、いかにも針の方が効果がありそうです。こうした宣伝を繰り返した結果、ますますエステ業界は、「永久脱毛」を売り物にしなければならない状況に追い込まれました。
レーザーの側でも対抗上「レーザー脱毛も永久脱毛である」ことを実証しようと様々な試みが行なわれましたが、所詮「永久脱毛」はどちらの場合も理念であり実際とはかけ離れたものでしたから、「永久」を「一生涯すべての毛穴で」と考える限り実現は不可能でした。レーザー側で「永久性を問題としない」「人体にとって、肌にとって害がない脱毛を目指す」と宣言したことで、「脱毛業界」全体が救われた面はあったのです。
もちろん今でも一般の方の中には「永久脱毛」を信じている方はたくさんいますし、一部のエステ関係者(これも言ってみれば医学的には素人集団ですが)は永久脱毛と言っていますが、最近では消費者の方も賢くなり、「また生えてきたから安いところに行ってくる」ような意識が主流となってきています。
毛が次々と生え変わっては成長するサイクルに関しては、昔から研究が積み重ねられてきましたが、古い毛が抜け落ちたあとの毛根に、次の毛の元になる細胞がどのように移動してきて成長が始まるのかは、レーザー脱毛が普及し始めた10数年前位まで、大げさにいえばほとんど謎に閉ざされていました。(毛の元になる細胞:幹細胞がどこにあるのかが初めて明らかになったのは1990年代になってからです)
100年以上前から行われていた針脱毛ではプローブ(針というと差し込むだけで刺していないのだから針ではないというエステ関係者もいます)を毛穴から毛に沿って差し込み、毛根の深さ(普通はちょっとこつんとした手応えがあります)に達したら電気を流し、毛乳頭の辺り(盛んに毛が作られている部分です)を破壊するために毛が生えなくなるのだと漠然と考えられていました。
ところが、レーザー脱毛になると問題は複雑化します。レーザー光は本当に毛乳頭を破壊しているのだろうか。毛乳頭を破壊しなくても脱毛が起こっているのではないのか。そもそも毛の種になる「幹細胞」はどこにあるのか。(実はその辺りは → 渋谷高橋医院・高橋先生のお書きになったものが大変よくまとまっていますので、そちらを参照いただいた方がよいかもしれません)
* 高橋医院とその傘下にあった脱毛サロン「ドクタータカハシ」は、無資格者に脱毛行為を行なわせていたため院長およびスタッフの逮捕という事態となり、すべての事業を廃止したので、残念ながらこれらの有益な文章は読めなくなりました。高橋先生自身は脱毛理論に関して造詣も深く優れた医師として尊敬申し上げていました。残念な事です。
ようやく1990年代の終わり頃になって、毛の種になる幹細胞は深い毛乳頭ではなく、皮膚の表面から1ミリほどのところにある立毛筋の付着部(膨大部:バルジ)あたりにある事が分かってきました。その辺りの細胞を取って移植すると、本来毛の生えない部分にも毛を生やすことができ、しかも細胞の数で毛の太さをコントロールできる事が実験で確かめられたのです。
レーザー脱毛の学会でこの事が発表されたとき、会場にいた皮膚科の先生が「これは大変だ、教科書を書き直さなくては」とおっしゃっていたのが思い出されます。ともあれこうして、レーザー脱毛の理論は徐々に進歩して行きました。
レーザー脱毛は、毛根の構造を破壊してしまうわけではありません。照射後も毛は生えてきます。これは非常に大切な事で、もし毛根を完全に破壊してしまえば、毛穴に付属する皮脂腺や感覚器も障害されて肌は大変なダメージを受けます。
まず、レーザーを吸収した黒い毛は細胞が加熱されて変性し、数日から1ヶ月といった長い期間をへて徐々に抜け落ちます。一方レーザーの熱を間接的に受けた幹細胞はその数を減らすとともに一時的には弱って休止期に入るので、抜けた後しばらくは毛の生えて来ない状態が続きます。
やがて徐々に毛の生えるサイクルは復活し、前よりゆっくりと、前より細い毛が毛穴から伸び始めます。非常に細くなった毛は、産毛のように色がなくなり、処理する必要がありませんが、中にはあまり熱作用を受けなかったために、もととあまり変わらない太さで伸びてくる毛も混じります。
このように、レーザー脱毛では、復活した毛は「まばらに」「細く」「伸びが遅く」なっているのが普通です。ある程度の時間をおいて、更にレーザーを照射する事で太い毛の数を減らして行きます。
照射間隔については、エステでいう一定の休止期(いわゆる毛周期)のようなものはレーザー脱毛に関しては特に考えなくてよいのではないかといわれています。
毛穴を破壊すると、皮膚には様々な不都合が生じます。毛はいらないが、毛穴は体にとって必要な器官です。毛穴のない皮膚、例えばひどいやけどで傷が残ったつるつるの皮膚をみれば、それは決して美しくも健康的でもない事がわかります。医療脱毛では、毛穴は破壊せずにできるだけ温存し、生えてくる毛だけを取り除くのが理想です。しかし、レーザー脱毛を「強い光などを照射して毛根を破壊する行為」と定義すると、毛根を破壊しない脱毛など果たしてありうるのだろうか、という疑問がわきます。
ではここで、私たちがいらないと思っている「むだ毛」とは一体何かを考えてみましょう。「むだ毛」は社会生活を行なう上で美容的に好ましくないため、伝統的に抜いたり剃ったりして取り除く事が習慣化した体毛の事です。
代表的なのが女性の腋の毛ですが、最近ではこれに加え脚の毛、口回りの毛、陰毛の一部または全部、眉、額の生え際、臍周囲や乳輪、背中、うなじなど、髪と睫毛を除いた体毛のほとんどが不要と見なされ、中には全身の毛を脱毛したいという女性も現れました。
男性は文化的に体毛はあって当然とされてきたのですが、最近では髭、腕や脚の毛、臀部や陰毛、耳や鼻毛、更にはこれまた全身の脱毛を希望する方もまれに訪れるようになりました。
これは日本という閉ざされた特殊な社会の文化・風習です。世界に眼を転じれば、例えば少し前までヨーロッパでは女性が腋の毛を伸ばしているのは普通でしたし(現在では逆に腋毛だけでなく陰毛も除去するのが常識になりつつある国もあります)、民族によっては眉毛が眉間の中央で繋がっている事が美人の条件だったり(だから繋がっていない女性は濃い眉墨で塗りつぶします)年配の女性はあごひげを伸ばす事で威厳を保ったり、あるいは全身にびっしりと体毛の生えた女性を「うさぎちゃん」などと呼んで愛でる風習のある民族もあります。逆にイスラム圏の一部などでは女性の体毛は不浄とされて例えば病院に行くと病気と関係なくまず問答無用で陰毛や脚の毛を剃られてしまったりもします。
逆に男性は髭を生やすのが当然とされるイスラーム圏の国では、髭がなければ子供かゲイと見なされたりしますし、体毛が薄ければレイプの標的とされるため温泉などの入浴を断られたりする社会もあります。
このように、体毛は生物学的な役割とは無関係に、その人の属する集団の風習によって必要だったり不要だったりするわけです。
体毛は頭髪のように頭部の皮膚を保護したり、眉毛や睫毛のように眼にゴミが入るのを防止したりする他、皮膚の感覚器として重要な役割を果たしています。風がそよぐような微細な皮膚感覚は、毛を短く剃ってしまうと感じにくくなります。
また毛の角質は非常によく水分を吸収し、乾燥した状態ではゆっくりと水蒸気を放出して、皮膚表面の水分調節、体温調節も行なっています。
これらは必ずしも生命活動に必須ではないので、脱毛しても特別に不都合という事はありませんが、すべて除毛してしまうと見た目には人を非生物化、無機質化するため人形のような性的魅力の乏しい存在に変化させる働きはあるといえます。(これを不都合と見るか好ましいと見るかは文化的な条件に規定されると思われます。)
これに対し、毛穴の働きははるかに重要です。毛穴は排泄器官であると同時に、非常にわずかですが物質を皮膚から体内に取り入れる際の入口にもなります。毛穴から主に出てくるのは皮脂ですが、これは皮膚の保湿には欠かすことができない物質です。皮脂が欠乏すると非常にカサカサと乾燥し、痒くなる事はある程度の年齢の方なら実感されるでしょう。
毛穴が破壊されたり、皮脂腺が萎縮すると、皮膚は正常な機能を保ちにくくなり、非常に不快な思いをする事になります。
毛包幹細胞の正体については未だに議論がありますが、今のところ皮脂腺開口部付近のバルジ(盛り上がっているという意味)またはその少し上の立毛筋付着部から峡(細くなっているという意味)の辺りに存在するのは確実視されています。最近では、バルジから移動した幹細胞が毛乳頭の上部で分裂を開始することが、次の毛の毛根を形成するスタートであることも確かめられてきました。(下記は押森直木氏 2012年論文より引用 規定の著作権表示は左端)
幹細胞というのは、普段は分裂せずに休眠状態にあり、必要な時に分裂してその一部を新しい細胞集団の種とした後、残りは再び休眠するという性質を持っています。従って、その存在を眼で見るためには、分裂するとなくなってしまう物質を細胞に取り込ませ、その物質を指標にして一定の時間が経っても分裂せずに残っているものを捜すという方法がとられます。
こうした研究の結果、毛包の幹細胞は毛だけでなく、毛の細胞にメラニン色素を供給するメラニン細胞や、毛の周囲を取り巻く皮膚の細胞にも変化する多能性を持っている事が確認されました。
(右図は 西村栄美氏 2009年「ニッチを介する幹細胞の維持機構の解明」上原記念生命科学財団研究報告集より引用)
ということは、幹細胞を死滅させればこれらの細胞の供給源も破壊する事になり、皮膚の恒常性の維持にとって重大な影響を及ぼす事になります。
レーザー脱毛にあっては、幹細胞の数を減らし、生えてくる毛を細くし、毛に含まれるメラニン色素を少なくすることで目的を達したということができます。
つまり、毛穴はちゃんと存在するが、そこから生えてくる毛は色の少ない見えにくい毛に変わっている、というのがベストなのです。
むだ毛の定義でも述べた通り、むだ毛とはいえそれは特定の人類社会に取って不要なだけであって、生物学的には無駄ではありません。従って、一本もない状態を維持するために時間とお金を浪費するよりも、たとえ残っていても処理に手間がかからない方法が望ましいといえます。
海外の文献では、永久性が達成されたかどうかは議論にならず、何回の照射で何%減少したか、が話題になります。例えば数回の照射で処理にかかる時間が半減したとするならば、十分目標が達成されたと見るべきなのではないでしょうか。
大江橋クリニックでは現在、レーザー脱毛用の機器として主にサイノシュアー社製のロングパルスNd:YAGレーザーを使用しています。
脱毛専業のクリニックのように毎日多くの患者さんを相手にするわけではなく、主に美容レーザーコースの一部として脱毛を行うことが多いので、多種類の脱毛機器を導入する余裕はありませんが、その必要もないと考えています。
患者さんが脱毛を希望される部位は色素沈着が見られることも多く、また皮膚色の濃い男性やアジア系外国人のご希望も少なくないことから最も歴史のあるアレキサンドライトレーザーは少々使いにくいし、ダイオードレーザーやフラッシュランプなどは機器の特性からハンドピースの取り回しが悪く使いにくいのです。
サイノシュアー社のYAGレーザーはハンドピースが軽く非接触式で照射時に微調整がしやすく、冷却も冷風が連続して出るので風量や照射間隔を調整することで痛みを減らすことができます。
脱毛専用機のように大きなスポットではありませんが、様々なスポットサイズのハンドピースを簡単に付け替えられるので照射径を絞って1本の毛だけを狙ったり、毛の密集した部分とまばらな部分でスポットサイズを変えたりが容易で、男性の髭のように頬、顎、上口唇と毛の太さも密度も大きく異なるような場所をきめ細かく照射することができます。
痛みがやや強いのが欠点ですが、適切な条件をきめ細かく変更することで、照射回数をかなり減らすことができます。
このため他の機種を使うことがなくなり、以下に書いた「導入の経緯」等も、過去の話になりました。
当院の院長は、日本で最初に医療用レーザー脱毛機LPIR(サイノシュアー社製ロングパルスアレキサンドライトレーザー)を輸入し(1997年)治療を開始した大城クリニックにおいて、1998年から1999年にかけてレーザー脱毛の担当医として勤務していました。
後に京都の城北病院に移り、そこではキャンデラ社製のジェントルレーズを主に使用しており、後にはジェントルYAGも導入したので、キャンデラ社の脱毛レーザーも数年経験しました。
その頃ルミナス社等からダイオードレーザーの販売もあり、またフラッシュランプを用いた脱毛器も登場しましたが、これらは発光の機構の制限からハンドピースが大きく重くなること、密着させないとトラブルになるため冷却ジェルを塗らないと使用できないことなどから、使い勝手が悪くそれを我慢してまで使用する気になれませんでした。
高周波を用いたものも同様の理由で採用しませんでした。
というわけで、開業に際してまず考えたのは上記の2社(サイノシュアー社とキャンデラ社)でした。
サイノシュアー社のアレキサンドライトレーザーは使い慣れてもいましたし、例えばスイッチを入れてから出力が安定するまでの時間、しばらく使い続けた時のエネルギーの低下割合などについて、大城クリニック時代にいろいろなテスト照射を行なって「どの程度信頼できそうか」に関するカンのようなものがありました。
城北病院で5年ほど使用したキャンデラ社のジェントルレーズ、ジェントルYAGも候補に上げ、実際発注をかける直前まで行きましたが、ハンドピースが日本人の手には大きくて扱いにくく、冷却の条件設定もやや難しいことに加え、城北病院時代からメンテナンス上の不安がどうしても拭えず結局キャンセルしました。
NIIC社については、これも前職時代に各種レーザーのデモ機の試用などを通じて、非常に信頼の置ける会社というイメージを持っていましたが、当時脱毛用レーザーは販売しておらず、従ってCO2とルビーは購入決定したものの、脱毛レーザーの候補には挙がっていませんでした。
ところが他のレーザーの契約交渉中に、実は脱毛用YAGレーザーの試作機があるという話を聞き、東京の本社に赴いて実際に試用させてもらう機会に恵まれました。その際に、特殊な形状の冷却チップのおかげで痛みが非常に軽減されていること、パラメータの変更により他の美容治療に使える可能性がある事などを実感し、これを試作機であり量産型ではないということを承知の上で導入する事にしたのです。
NIIC社製のレーザー・Lasery IS501は製品版の市販品ではなく、そのプロトタイプに当たる実験機であるため、ここに掲載している写真とは若干デザインが異なります。独特な形状の冷却チップを備え、痛みも少なく特に腋脱毛には最適な機種でしたが、その後NIIC社が他社に吸収された際に販売とメンテナンスが終了し、後継機が発売されなかったため電源故障を契機に役目を終えて引退しました。
最初の計画では、脱毛用レーザーとしてサイノシュアー社のアレキサンドライトとNIIC社のYAGレーザーを使い分けるつもりでした。しかし開業当時の建物の電源キャパシティーの制限とレーザー室の面積が限られているという事情により、サイノシュアー社のレーザーは2台までしか置けない事になりました。そこでアファームとシナジーマルチプレックスを選択し、アレキサンドライトレーザーを積んだ「エリート」は導入を断念したのでした。
これでアレキサンドライトレーザーによる脱毛を諦めた代わり、サイノシュアー社のシナジーとNIICの機械とはパラメータの調整により全く同じ出力で治療する事が可能なので、万一片方が故障した場合、他方を代替機として機能させられるという利点も生まれました。実際上、レーザー脱毛に関してはYAGで十分な効果が得られそうだという考えもありました。
こうして大江橋クリニックでは、脱毛にはもっぱらYAGレーザーを使用する事になったのですが、現在までのところこれで不都合を感じた事はありません。
トラブルも少なく、部位によって2台を使い分けられ、効果も十分出ていると思います。もちろん今後新機種を導入する可能性はありますが、そのときにはまたこのサイトでお知らせします。
YAGレーザーに要る脱毛は、夏の日焼けした肌や色調の濃い男性の肌にも対応可能です。
脱毛レーザーが開発された当時、有色人種の脱毛にはアレキサンドライトしか選択肢はありませんでしたが、条件が厳しく肌色の濃い患者さんには細心の注意が必要でした。しかしその後より長い波長をもつダイオードレーザー(800nm)やYAGレーザー(1064nm)が登場し、現在ではこの3つの波長のレーザーがシェアを争っている状態だと思います。この他ラジオ波RFやフラッシュランプIPLなどを用いたものや、それらを組み合わせた機器も多数登場していますが、それぞれに優劣長短があり、どの機種が最良最適であるとはひと言で言えない状況です。
インターネットの匿名掲示板などでは、細い毛にはダイオードレーザーしか効かないとか、アレキサンドライトはやけどをするとか、YAGは効果がないなどと、機器の特性か照射技術か出力の強弱かが区別されないまま、非常に雑駁な意見があふれています。
実際に脱毛効果に影響する条件は、皮膚のどの部分を何秒間何度まで加熱するか、という熱の問題にしぼられます。従って一定の条件がクリアできるならば、上記以外のレーザーを使っても脱毛効果は出せますし(最初の脱毛はルビーレーザーで行われた)、そうであるならばいかにして脱毛に適した条件を作り出すか、その条件を可能にする機種、波長、技術の組み合わせを選択すればよいことになります。
このように考えたとき、一定の技術を持つ施術者にとって最も良い機器とは、いろいろな条件(パラメータ)を自由に設定でき、設定した値に信頼性のある安定性のよい機器と言うことになります。私たちはこうした考えで、開業時に入手可能であった各種機器を評価しました。
当クリニックではレーザー治療はすべて長年レーザー治療に携わってきた医師が直接行っており、
無資格者や非熟練者の照射に比べ治療効果も安全性も格段の差があると考えています。
脱毛は医療行為であるとの考えに基づき、
毎回正確な症状診断と的確なエネルギー条件設定を心がけています。
肌質によっては他のレーザーとのコンビネーションや、照射条件を変更しての追加照射も同時に行います。
まずはじめに、以下の文章をご覧下さい。各通知の原本(リンク)は厚生労働省のサイトから引用しています。
最近、医師免許を有しない者が行った脱毛行為等が原因となって身体に被害を受けたという事例が報告されており、保健衛生上看過し得ない状況となっている。
これらの行為については、「医師法上の疑義について」(平成12年7月13日付け医事第68号厚生省健康政策局医事課長通知)において、医師法の適用に関する見解を示しているところであるが、国民への危害発生を未然に防止するべく、下記の通り、再度徹底することとしたので、御了知の上、管内の市町村並びに関係機関及び関係団体等にその周知を図られるようお願いする。
記
ほとんどの医療機関で「医師の指導のもと」看護師が実際にレーザー機器を操作しているのが現状だろうと思います。大江橋クリニックの院長が初めてレーザー脱毛に従事した「大城クリニック」でもそうでした。(大城クリニックは日本で初めてレーザー脱毛を行なった施設なので、つまり、日本の脱毛医療ではそもそものはじめから「看護師が」レーザー照射を行なっていた事になります)
しかし、あえて言いますが、それは本当に「医師法違反ではない」のでしょうか?
看護師が医師に代わって、医師の指示の下で何らかの医療行為を行なう場合、医師は「自らが直接行なうのと同程度の安全性を確保し」「その行為によって生じる結果に対しては自らが責任を負うことを認識して」指示しなければなりません。
レーザー脱毛で言えば、照射を行なう場所に同席するなどして、患者の状態を確認した上で照射エネルギーと照射方法を自ら決定し、それを明示的に看護師に指示しなければならないと考えます。
看護師が注射薬の濃度や点滴の分量を勝手に変更できないのと同じように、照射エネルギーを勝手に上げ下げする事は許されないと思います。まして、一部のクリニックのように「医者は初日に1回顔を見ただけ」だったり、甚だしくは「一度も医者に会わずに」看護師だけで治療を行なうような施設は、医療施設であっても上記通達に照らして違反行為を行なっていると考えます。
レーザー照射は、注射よりもむしろ手術や内視鏡検査などに類似する、長時間にわたって患者さんに侵襲を加える医療行為であろうと思います。
施術者は常に患者さんの状態に注意し、照射エネルギーやハンドピースの動きをコントロールしながら患部の治療を行なわなければなりません。患者さんの皮膚の状態はデリケートで、同じ人でも日によって、照射部位によって、あるいは体調によって反応が異なります。
レーザー光による皮膚反応は、数分から時に数時間経って初めて明らかになります。反応が強すぎたからといって照射した事実を取り消す事はできません。ですから常に細心の注意を払って患者さんを観察していなければなりません。
少なくとも私は、最初にちらっと見ただけで適切な照射エネルギーを設定して最後まで人任せにする勇気はありません。
レーザーは正しく調整されていればスイッチを押せば同じエネルギーが繰り返し照射されるはずですが、それを受け止める皮膚は、片時も同じではありません。ですから、大江橋クリニックではレーザー照射は必ず医師が自ら行ない、スイッチのオンオフも、エネルギーの調整も人任せにはしません。それが安全性を確保し治療効果を高める唯一の方法であると思っているからです。
レーザー脱毛に限らず、すべてのレーザー治療は、まず患部を見せていただき診断するところから始まります。
場合により、レーザー脱毛が向かないと判断したり、レーザー照射の前に他の治療を受けるべきであると診断することもあります。
例えば全身性の多毛症が疑われる場合には、血液検査を行なったり専門の施設(婦人科や内分泌内科など)をご紹介する場合もあります。
また、脱毛がご希望の場合でも、他の美容系レーザーの照射を優先した方が結果が良い場合もあります。
このページにも詳しく解説していますが、永久脱毛や全身脱毛などの困難な理由、年齢や性別などによる影響、一般にネットで出回っている情報の間違いなどを患者さんに正しく理解していただく必要があります。
予約時間を増やしてだいぶ自由にお受けできるようになったのですが、膝下全周、背中、両腕など広範囲の場合には診療時間中の予約が困難な場合もあり、日時を制限することもあります。
料金は一応このページに載せているものが基準ですが、体格や毛の量、回数、かかる時間などによって割引できる場合があります。通常、美容系の他のレーザーをあわせてご希望の場合はかなりお得になったりします。皮膚の状態によっては、同じ部位に数種類のレーザーを照射する(レーザーリミックス)場合もありますが、特に取り決めを行なった場合を除き、料金が変わる事はありません。
レーザーを照射すると毛が加熱されて燃えます。このため、皮膚の表面から長く伸びた毛は皮膚のやけどの原因となり危険です。また、長さによっては本来毛根に作用するべきエネルギーを消費してしまい、脱毛の効率が落ちることもあります。
ただし、産毛などの生えている場所によっては逆に皮膚を適度に刺激して美容効果を高めることもあります。通常は照射前に説明しています。
アトピーやアレルギーなどがあっても通常問題なく照射できます。皮膚炎などはかえってよくなる場合があります。ただし、条件によっては赤みが長引くなど問題を生じることもあるので、まず診察を受けてご相談ください。
色素沈着は濃さにもよりますが、通常レーザー脱毛の妨げにはなりません。ただし、エネルギーの強さやパルス幅を白く透明な肌より厳密にコントロールしなければなりません。
医療行為もコストパフォーマンスが適切でないと、医師にとっても患者さんにとっても継続して行なうことができなくなります。
レーザー脱毛は近年、熾烈なダンピング合戦によって治療費が劇的に下がりました。その結果、多くの施設ではコストに見合った収入が得られなくなり、経営上の思惑(客寄せの宣伝など)がない限り利益の見込めない施術となりました。
利益を出すために無資格者を使い人件費を切り下げるなどすれば医師法違反となり、結局営業停止処分などを受けて倒産した施設も少なくはありません。
最近も大手の全国チェーン美容外科が突然脱毛治療の受付を終了し話題になっています。理由は明らかにされていませんが、医師法違反での立件を回避するためか、不採算部門の切り捨てであろうと考えられています。
脱毛を「医業として」行なう場合、コスト要因には脱毛機器そのものの価格およびメンテナンス費用、脱毛を行なう施設の維持管理費、脱毛を行なう施術者の人件費、レーザー以外の機材・消耗品の価格、広告宣伝費、などが考えられます。
脱毛用レーザーは最近1000万円を切る安価な機種も普及してきましたが、安全性の高い信頼できるメーカーの製品は未だに高価です。それらの機器を毎日整備するためには、年間数百万円のメンテナンス費用が必要な事もあります。
施設使用料に関しては、一般のオフィスと同様便利な場所にあるきれいな建物ほど、また受付や補助スタッフの人数が多いほど高額になる事はご理解いただけるでしょう。
広告宣伝費は全くかけていない当クリニックのような施設から、年間数億円に上るテレビCMや雑誌広告を続けている施設まで様々です。
レーザー照射は、誰がやっても同じ、とはならない技術的修練の必要な医療行為です。単にハンドピースを扱う手先の技術のみならず、対象となる皮膚を観察してその変化をとらえる眼と、皮膚の中で何が起こっているかを瞬時に判断する知識と判断力が求められます。
それを担保するのが資格を持った技術者です。現在のところレーザー照射専門の資格にはレーザー医学会の専門医制度などがありますが、技術的な精度を保障するものではなく、人体を扱う医療行為として「医業」すなわち医師免許を有し人体組織の仕組みを総合的に判断できると考えられる医師すべてにその行為を委ねているわけです。
無資格者が知識の裏付けなしに照射を行なえば、治療効果は下がり危険性は上がります。それを承知の上で、「たかが脱毛」と考えるか、自分の体に無資格者が危害を加える可能性をリスクととらえるかで、脱毛のコスト意識は大きく変わると思います。
高いと思われる方は、自分に取って適正価格と思われる施設を選んでください。それがご自身の体にかけてよいと思われる費用であれば、そのかわりそれに見合うリスクは引き受けるべきです。事故はたびたび起こるものではありませんが、だからといって整備士のいない航空会社を使ったりパイロットのかわりに無資格者に飛行機を操縦させたいとは思わない筈です。
自費治療費のページやパンフレット等に載せている治療費はあくまで「めやす」です。
医療には不確定性がつきものであり、明瞭会計はなじみません。面積や部位よりも肌の状態や痛みの程度、それに応じて変わる照射間隔、施術時間などにコストは影響を受けます。
医師にとってストレスなく安全に短時間で施術できるならば、費用はご相談により変えてもいいと思っています。もちろん、相談なく事前のお約束より値上げしたりはしません。
取り除きたいと思う「むだ毛」は黒い、すなわちメラニン色素を大量に含んだ細胞の塊です。それならばメラニン色素に良く吸収される波長のレーザーを使う方が効果は高そうに思われます。
ところが → レーザーの原理のところでも見たように、主にレーザー脱毛に用いられるレーザー(アレキサンドライト、ダイオード、YAG)の波長におけるメラニンの吸収率はそれほど高いものではありません。(縦軸のメモリが対数目盛りで、一目盛り上がると10倍になる事に注目してください)
とりわけ、大江橋クリニックで脱毛に使用しているYAGレーザーは1064nmとかなり赤外線方向によっています。これはなぜでしょう。
実は最初にレーザー脱毛を行なう機器として考えられたのはルビーレーザーでした。ご覧の通り、メラニン色素に対する吸収が良く、ヘモグロビン(赤血球の赤い色素)に対する吸収は非常に少なく、そのためシミやアザの治療に使われているのは御存じの通りです。
ところが、白人と違い肌の表面にも色がある東洋人には使えませんでした。皮膚まで焼けてしまうからです。
皮膚表面に対する吸収性が下がっても、照射条件を工夫すれば毛根に熱を蓄積できることが理論的に示され、実際に実用に堪える機器としてまず発売されたのがアレキサンドライトレーザー(サイノシュアー社LPIR)でした。その後他者も追随し、ダイオード(半導体)、そして有色人種でも安全に使えるYAGへと脱毛レーザーは進化して行きました。
YAGレーザーのメラニン吸収率はアレキサンドライトレーザーの数分の一に過ぎませんが、そのかわり日焼けしていても、有色人種(スキンタイプの数字が大きく肌の色が黒い)でも使える事から、男性の脱毛には最適と考えられています。
実際にはYAGレーザーは脱毛業界ではそれほど普及していません。その理由の一つが「痛み」です。
光は波長が長くなるほど皮膚の深くまで届きます。また、YAGは他の脱毛レーザーよりもヘモグロビンや水に対する吸収が良く、従って血管内を流れる血液にも吸収されます。血管の周囲には神経もあるため、YAGは他のレーザーに比べて「深いところが鋭く痛い」傾向があるのです。
また、メラニンへの吸収が悪いため、脱毛効果を出すためには高い出力が要求されます。アレキサンドライトでは条件にもよりますが10J程度でも脱毛が起こるのに、YAGはその数倍の出力が必要になります。
上の方に参照先を書いた(読めなくなってしまいましたが)高橋先生などは、ヘモグロビンに吸収される事は脱毛に取って悪いことと考えていたようで、YAGで脱毛を行なう際には圧迫して血管の中の血液を排除しないと危険であり、またメラニンに対する吸収率の差から単純に計算するとYAGの脱毛には80Jの出力が必要で、痛くて不可能だと書いてありました。
しかし実際には、レーザーによる脱毛は浅いところにある幹細胞を加熱するだけでなく、毛乳頭付近の細胞にも影響を与えている筈で、その際にはヘモグロビンへの吸収や水分への吸収も協同的に働いている筈だと考えられます。
そうでなければ、実際には25〜40J程度の出力で(という事はあまり痛くなく)効果的に脱毛できているという事実の説明ができないのです。
レーザー脱毛が日本に上陸した当時、熱緩和理論の提唱者Anderson博士は、同じ場所を複数回照射しても、脱毛効果は変わらず熱障害が倍加するため、照射する際にはスポットが重ならないようにすべきだと講演していました。
これを墨守していまだにいわゆる「ワンパス」照射にこだわり、重複照射を避ける施設もあります。
しかし、レーザーによる熱障害は単発の高すぎるエネルギーでは発生しますが、冷却装置の発達した現在ではあまり気にする必要はないように思います。大江橋クリニックでは、一通り照射した後更に別の波長やパルス幅を用いて重ね照射をする場合があり、その方が多様な太さの毛を効率よく脱毛できるのではないかと考えています。
特定の部位(うなじや上腕、背中など)のあまり濃くない産毛にレーザーを照射すると、照射前よりかえって濃く長い毛が増えるという現象が、レーザー脱毛が始まった当初から報告されていました。
現在でもこれを完全に防止する方法は報告されていません。
なぜそのような事が起こるのか、定説はありませんが、私は次のように考えています。
毛が長くなるのは成長期が延長しているためですから、本来ならば数ヶ月で成長が停止し抜け落ちる筈の産毛が、退縮期に移行できず次のヘアサイクルへの転換ができなくなった状態であると考えてよいのではないでしょうか。通常、毛が太く長くなるのは「毛が元気になった」などと考えがちですが、実は弱って「抜ける力がなくなった」というわけです。
そうであるならば、このような現象が見られるのは毛包の熱変性が中途半端に起こったからであり、レーザーの出力が足りなかった可能性が大きいと思われます。一度硬毛化した毛がレーザー脱毛に反応しにくいのもこれで説明できます。
大江橋クリニックのレーザー脱毛は、はっきり言って結構痛いです。それはなぜか、についてはおいでになった方にわかる言葉で詳しく説明します。
痛くないレーザー脱毛が流行していますが、「弱い出力のレーザーを複数回連続して照射することで毛包幹細胞の温度を上げ、死滅させることができる」というその理論そのものの当否は別として、毛包幹細胞に的確にダメージを与えるには、そうしたサイトで説明されているよりもっとずっと高い温度が必要な筈です。効果がないとは言いませんが、おそらく効果が弱いであろうことをいろいろな言葉で飾り立てて誤魔化しているように見えます。嘘とまでは言えなくとも不確かな推測がかなり混じっていると感じます。
もちろん痛くないなら回数がかかっても良いという人もいるでしょうから、ニーズはあるでしょうが、同等の効果を謳うのはどうでしょうか。
少ない回数で効率よく太い毛を減らすには、レーザーの波長やエネルギーの強さだけでなくパルス幅や冷却力の組み合わせがその場で臨機応変に変更できなくてはならないと、脱毛を始めた当初から考えていました。大江橋クリニックでは開業当初からそうした考え方に立って脱毛を行っています。
パルス幅やスポットサイズが一定の機器では脱毛できる毛の太さが限定されますし、皮膚温を上げないようにして火傷を防ぎながら深いところにエネルギーを集中させるには、フルエンス(照射エネルギーの強さ)と冷却温度のバランスが大切です。
パルス幅可変の脱毛レーザー、という言葉が最近出てきたのには理由があり、脱毛レーザーの大手であるシネロンキャンデラ社の従来機種がパルス幅固定だったものが、新型では変えられるようになったため宣伝をしているものと思われます。他のメーカーの脱毛機はそのほとんどがもともとパルス幅可変であったので、何を今更なのですが。
アンダーソン博士が提唱した熱緩和理論は、1ショットのパルス幅(照射時間)と熱破壊できる毛根の直径とに一定の関係があることを示しており、太い毛ほどパルス幅を大きく(長い時間に)しないと効果が少ないことは当初から知られていましたが、技術的問題と特許によりメーカーによって出力できるパルス幅に限界がありました。またレーザー光の波長により皮膚への吸収性と深達度が変わるのでそれを補うためにハンドピースの直径や冷却の強さを工夫する必要がありました。こうした理論を、施術にあたっている看護師や(違法なことを承知で行っている)エステティシャンはどの程度学ぶのでしょうか。抜けなくなったら(反応が弱くなったら)出力を上げる、程度の半端な知識で照射をおこなっていないでしょうか。
エステで脱毛をしたいがうけてもよいか、というご相談をいただく場合があります。当院ではよいか悪いかという判断はしません。無資格者による脱毛は違法ですが、現実に営業している以上、契約はご自由に、ただし自己責任でお願いします。
脱毛部位によって施設を変えるという方もいらっしゃいますが、当院では大江橋クリニックの責任範囲が不明確であるような場合、その後の治療をお引き受けしないことがあります。
エステに行き脱毛をしようとしたが、当院で処方した薬剤により光過敏性などの悪影響をうける恐れがないという診断書が必要、というご相談をいただく場合があります。
この場合も当院ではよいか悪いかという判断はしません。施術する側が判断すべき事であり、不安ならば行なわなければよい事です。当院に責任を取らせる態度は承服できません。お受けになる事は自由ですが、ただし自己責任でお願いします。万一トラブルがあっても対応しません。(当院で脱毛される場合は、責任を持って判断します)
エステに行き脱毛をしたが、脱毛部位が痒くなったりできものができた、と皮膚科診察を希望される場合があります。
エステ施術による脱毛トラブルは、施術する側が対処すべき事であり、当院では治療を行ないません。
エステで施術をお受けになる事は自由ですが、その結果についてはエステと交渉してください。健康保険は使えません。
皮膚疾患によっては、脱毛行為と無関係に脱毛した場所に皮疹が生じる可能性もあります。しかし、脱毛との因果関係が不明瞭な場合、治療を行なう事により更に責任をうやむやにしてしまう恐れがあります。
脱毛を行なった部位に何らかの異常や皮膚疾患が生じた場合は、その施術を行なった施設に責任があるかどうかの判断は医療よりもむしろ司法がふさわしいと考えます。脱毛を行なう医療施設であれば当然皮膚疾患の診療を行なっている筈なので、そちらでご相談ください。
過去に医療施設やエステで脱毛をしたことがあるが、なかなか効果が出ず、あるいは回数が不足で、多少は減ったがまだ自己処理する必要があるというご相談をいただくことがあります。
前施設での契約が終了して相当の期間が空いており、皮膚への影響が残っているとは思えない場合、当院で新たに脱毛を始めるのは特に問題がありません。ただし、脱毛の理論や結果については誤った知識がそのままになっている場合もあるため、一度診察を受けていただき、説明をさせていただいた上で同意書をいただいています。
レーザーに反応しにくい毛根があるのは事実で、回数を重ねて残った毛については、通常のエネルギーでは反応性に乏しい場合もあります。その場合には異なる波長のレーザーを重ねるなどの工夫をします。
非常に毛の量が減少しており全体に照射する必要がない場合等は、費用についてご相談に応じています。