大江橋クリニックは眼瞼下垂症の診断・治療に力を入れています
手術を成功させるためには、まず正しく診断することが大切です
以下、順不同ですが、診察を行う際に気を付けているポイントをいくつか上げておきます。
眼瞼下垂症は、非常にまれではありますが「重症筋無力症」という全身性の疾患の初発症状として(あるいは瞼だけに症状の現れる「眼筋型」筋無力症として)現れてくる場合があります(発症率は5/100,000程度)。
女性では30歳代、男性では50歳代の発症が多いといわれます。
比較的若い方が、夕方になると瞼が重くて目が開かなくなる、と訴えた場合、頻度は少ないものの重症筋無力症は否定しておきたい疾患の一つです。左右差がはっきりせず日によって違うと言ったり、疲れ方などによって症状が非常に重い時と軽い時とがあるので、問診は重要です。
簡便には、瞬きを素早く繰り返してもらった後、「瞬きをしても構わないので、出来るだけ頑張って天井を見つめてください」と十数秒程度上方視してもらいます。この方法は眼瞼痙攣を見つけるときも有効ですが、眼瞼痙攣では次第に下眼瞼が吊り上がって目を閉じようとするのに対し、筋無力症では上方視が続けられず瞼が下がってきます。
目薬を指して下垂症状が改善するかをみる「テンシロンテスト」や血液検査などを行う方法もありますが、実際にはこの病気を疑った場合無理に自分で確定診断しようとせず、神経内科・神経眼科に紹介してしまった方が良いように思います。
重症筋無力症は、特別な血液検査(特異抗体の検査)で判定がつくこともあります。
保険適応はありますが比較的高価な検査となり、陽性となるのはこの病気の半数程度とされています。
陰性の場合さらに別の血液検査を追加することもできます。
しかし時間と費用をかけてもいずれの検査も陰性でしたとなると、専門外のため確定診断に至らず困る場合もあり、治療することも含めると、むしろ最初から筋電図などの検査ができる専門施設にご紹介すべきだと考えています。
眼瞼痙攣は原因不明とされていますが、頻度は決して少なくなく、診断し慣れている眼科の先生なら普段からたくさん診察しておられると思います。
ドライアイ症状と眩しさを訴えることが多く、夜間車のライトが眩しいという訴えで気づいたこともあります。
眼輪筋の強直性痙攣が主症状なので、眼輪筋を素早く動かしてもらうと診断がつきやすいです。
外来では瞬きをすばやく30回くらいしてもらいます。正常であればパッパッパっとリズミカルに瞼を閉じて開けることができますが、眼瞼痙攣があると非常につらそうにゆっくりと大きく動かし、数回で疲れてしまいます。
上方視でも眉が上がらず、眉間に縦皺を寄せ、つらそうに顔をしかめることが多いようです。上にも書きましたが、上方視して開瞼を続けようとすると下瞼がずり上がるようにして目を閉じてしまう様子が見られることがあります。
問診では、目を閉じている方が楽だとか、片目を瞑って仕事をしている、とか歩行中無意識に目を閉じていて電柱にぶつかった、とかのエピソードを聞き出すことができます。待合室で目を閉じていることも多いです。
緊張やストレスが誘因になることもあり、仕事のコンピュータは見ていられないがパチンコに行くと目が開くので仕事が嫌なのだと思っていた、という人もいました。
眼瞼痙攣の治療にはボトックス注射が用いられることがあります。形成外科や美容外科でもこの治療をする資格を持っている医師は多いと思われますが、きちんとした診断のもとに正しく治療しないと、かえって眼瞼下垂を誘発してしまうことがあります。
大江橋クリニックでは自分で直接治療せずに、専門の神経内科を紹介してそこで治療を行ってもらい、眼瞼下垂を合併していれば帰ってきてもらって当院で手術するという方法をとっています。このほうが症状別に責任分担ができていいのではないかと今は考えています。
もちろん一人で両方診た方が総合的に治療できるとお考えの医師もあると思うので、この方法をお勧めするものではありません。
軽度の外斜視があり、斜視のある目で固視しないためにそちらの瞼が少し下がっていることがあります。複視になって気持ち悪いため片目を閉じてしまう「外斜視の片目瞑り」という現象も知られています。また片方の目が上斜視のためそちらの方がMRD1が小さく眼瞼下垂に見える場合もあります。
いずれも視力検査の要領で片目ずつ覆ってみたり、簡便には患者さんの目の前で手のひらを顔面に向けて左右に動かしたりすると発見できることがあります。
眼科的な治療が可能であればそれを優先しますが、斜視手術の適応がない場合、状況に応じて眼瞼下垂症手術をするかどうか判断します。
うまく矯正できて左右差が目立たなくなることもありますが、無理に左右の開瞼量を揃えようとすると斜視が強調されてしまう場合もあり、少し控えめにしておいた方が良いこともあります。
患者さんが気づいていないこともあるので、疑った場合はまず眼科を受診して視力や両眼視機能等を図ってもらう方が良いと思っています。
通常眼瞼下垂があると目を見開こうとするために眉が上がることが多いのですが、眉が下がっていることがあります。よく見ると口角も片側が下がっていたりします。
顔面神経麻痺は帯状疱疹に伴って起こったり特発性に出現したりしますが、治療が遅れると回復せずにいくぶん運動麻痺が残ることがあります。自覚的には問題なくなった場合、患者さんも過去に麻痺が起こったことを忘れてしまい、こちらが聞くまで思い出してくれないことがあります。「随分前に一度なったけれどすぐ治った」などと言われることもあります。
この場合眉を持ち上げて固定するだけで良いこともありますが、眼瞼下垂症手術が必要な場合もあり、挙筋機能などをみておかないと思うような結果が得られません。まつ毛が下がって下を向いていることもあり、毛根の剥離が必要になることもあります。
麻痺かどうかわからない場合、口を動かして「い〜」「う〜」と言ってもらったり、舌を前に突き出してもらったり、ウインクしてもらったりして顔面全体の動きを観察します。
麻痺ではありませんが顔面半側萎縮症の患者さんに対して眼瞼下垂症の手術を行なったことがあります。
発症初期だったので初めは萎縮に気づかず、上眼瞼の陥凹と眼瞼下垂症状だけだったので定型的な手術で改善すると考えたのです。ところがしばらくすると手術した側の上眼瞼が落ち窪んできました。通常は挙筋前転術を行うと陥凹はむしろ改善しますから、眼窩脂肪の処理に手落ちがあったのかと悩み、脂肪を引き出そうと再手術しました。
ところが意図に反して眼窩内には脂肪がほとんどなく、仕方なく急遽下腹部から真皮脂肪をとらせていただいて移植しました。
移植した脂肪は徐々には減りますが、減り方が早いように思い、写真を見直していてあっと思いました。それまでは目の左右差が気になって、目の周囲しか見ていなかったのですが、顔全体の写真を見ると頬の脂肪も片側だけ最初よりげっそりと減っていたのです。
当時の知識では、この病気はいずれ進行が止まるので、止まってから脂肪を移植するしかないように思いました。
そうこうするうちに患者さんは鬱になり、来院できなくなってしまいました。最初から気づいていたとしてもより良い治療ができたかどうかはわからないのですが、眼瞼下垂と思い込まずに顔全体、体全体を診察することを怠ってはいけないと思わされた経験でした。