レーザーを様々な治療に使うようになるまで

Laser

レーザーの理論や発明の歴史については様々な資料があり本もたくさん出版されています。ここでは大江橋クリニックの院長が患者さんに説明する際にお話しする内容を簡単にまとめてみます。興味のある方はご一読ください。

レーザーの理論と実用化の歴史(あらすじ)

レーザー(LASER: Light Amplification by Stimulated Emission of Radiationの頭文字を連ねた造語)の基礎となる理論は1917年、アインシュタインによって提唱されました。
最初は電磁波(マイクロ波)の性質に関する理論であったのでメーザー(MASER)と呼ばれていましたが、1959年に光(可視光も電磁波の一種です)でもメーザービームが発振できることが示され、M(マイクロウェーブ)をL(ライト)に変えてレーザー(LASER)という言葉が生まれました。
翌1960年に、最初のレーザー機器(ルビーレーザー)がアメリカでメイマンにより試作され、その有用性からすぐに軍事目的で実用化されました。
その後1960年代後半には皮膚科医ゴールドマンによりレーザー光をあざの治療に用いる試みがなされ、レーザーが医療の世界に進出してくることになります。

タイムライン

1917年
アルバート・アインシュタインが、レーザーの基礎となる電磁波の誘導放出現象を予測した。
1939年
バレンティン・ファブリカントが、電磁波の放射を増幅する誘導放出を理論化。
1950年
チャールズ・タウンズ、ニコライ・バソフおよびアレクサンダー・プロクロフが誘導放出に関する量子理論を発展させ、マイクロ波の誘導放射を実験により実証した。彼らはこの画期的な研究により後にノーベル物理学賞を受賞する。
1959年
コロンビア大学の大学院生、ゴードン・グールドが、光の増幅にも誘導放出が利用できると提唱。彼はコヒーレントな(波長の揃った)光の細いビームを生成できる「光共振器」の概念を示し、それを「放射の誘導放出による光の増幅(LASER)」、つまりレーザーと名付けた。
1960年
セオドア・メイマンが、カリフォルニア州にあるヒューズ研究所で最初のレーザー機器にあたる実用試作品を製造。このレーザーは、媒質としてルビーを使用し、694.3nmの波長をもつ強力な可視光線ビームを放出した。
ルビーレーザーの最初の用途は軍事においての距離計測であった。この後引き続いて、様々な媒質を用いたレーザー機器が続々と開発される。
1963年
AT&Tベル研究所のクマール・パテルが炭酸ガス(CO2)レーザーを開発。CO2レーザーは連続発振ができることに加え、ルビーレーザーよりもはるかに低コストかつ高効率であり、50年以上に渡って最も普及した工業用レーザーとなった。現在も次々と各種媒体によるレーザー機器が開発されており、医療に応用されるレーザーの波長だけをみても三十種類以上に及んでいる。

1974年に皮膚科医としてあざの治療に取り組んでいた大城が、レーザー治療の先駆者レオン・ゴールドマンに師事するため渡米して、ルビーレーザーによるあざの治療法を学び、帰国後静岡で日本で初めてあざのレーザー治療を開始します。当時は医療用のレーザー機器は国内に存在しなかったため、工業用ルビーレーザーを独自に改造して治療にあたったのです。
1977年東京に移った大城は本格的なレーザー治療専門の施設を作り、1日に数百人の治療を行うようになります。一方その頃にはルビーレーザーに続いてCO2レーザーやYAGレーザーなど様々な医療用レーザー機器が現実のものとなり、次々と輸入されて様々な疾患の治療に用いられることになりました。

関西のレーザー治療の歴史

大江橋クリニックの院長が医師となり研修をしていた平成の初め頃には、東京だけでなく名古屋、大阪、京都、福岡などにレーザー治療を行う医療施設が次々と誕生していました。特に関西では京都の冨士森形成外科、城北病院、鈴木形成外科、大阪の葛西形成外科、和歌山の角谷整形外科病院などに次々と各種レーザー機器が導入され、レーザーを学ぶのには格好の環境と言えました。
研修医として初めて使用したレーザーは兵庫県立尼崎病院に導入された、レーザーメスとして用いる連続発振式YAGレーザーでした。翌年には冨士森形成外科でPDL(パルス発振式色素レーザー)を用いた血管腫の治療を学び、鈴木先生のもとで城北病院に関西に初めて導入されたQスイッチ式YAGレーザーで、茶あざ(扁平母斑)や刺青(イレズミ)の治療も研修しました。和歌山の角谷整形外科病院に出張して、新たに導入されたYAGレーザーを使ってあざの治療も行っていました。葛西先生は大阪の中央区本町にレーザー専門のクリニックを立ち上げ、各種レーザーを揃えて全国から殺到する患者さんの治療を行うようになっていきました。

その後のレーザーとの関わり

その後京大形成外科教室の人事異動に伴いレーザー設備のない国立病院や市民病院勤務となりましたが、和歌山角谷病院でのレーザー治療は月に数回ですが出張して行っていました。しかし、ドイツに留学することになり国外にいた2年間は、手術研修が中心でレーザー治療を行う機会がありませんでした。

大城先生との出会い

帰国して最初の勤務先は東京の大城クリニックでした。上にも書いたように、日本で最初にレーザー治療を始めた大城先生のクリニックです。当時は信濃町駅ビルに移転して数年たち、銀座に美容専門クリニックも立ち上げていました(その後閉院)。その高名な先生のもとで改めてレーザーの基本を学び直すことになったのです。毎週レーザーの専門家を招いて勉強会をし、分担してレーザー治療の教科書を作るための原稿を書いていました。当時のトピックは、留学からの帰国前年から本格的に日本で始まった「レーザー脱毛」と、大城先生が始めた世界初と言って良い「美容レーザー」の二つでした。二つの最新技術を日本におけるレーザー治療の第一人者である大城先生から直接教えていただいたのは幸運でした。

城北病院でのレーザー治療

その後京都に戻り、研修医時代にも関わっていた城北病院においてメディカルエステ(という言葉と概念は城北病院発祥だと思います)を立ち上げた鈴木先生の後任として、メディカルエステと組み合わせる美容レーザー治療の開発に関わり、それが開業してすぐに開始した美容レーザー総合コース(お肌デトックス)につながります。
お肌デトックスとその上位バージョンの大江橋マジックは、大城先生の始めた世界初の美容レーザー治療(ラ・ジュネッセ)と鈴木先生の始めたメディカルエステ治療を融合させた、直接の発展形であると言っても良いと思います。

レーザー治療に携わるようになって30年以上が経過しました。

当時と比べて確かにレーザーが進歩したと感じるのは、電源が安定し、100Vのコンセントでも安定して使用できるようになったこと、大口径・高出力のパルスが1秒間に数ショットという速さで照射できるようになったこと、微弱で不安定で実用にならないと言われていたダイオードレーザーが安定して高出力で発振できるようになり脱毛レーザーとして主流になったこと、また様々な波長の機器が上梓されて治療の選択肢が増えたこと、そしてレーザー機器が非常に小型化されたことでしょうか。最近ではパルス幅数百ピコセカンドとナノセカンドより更に短い時間で照射できるQスイッチがつき、一般にもピコレーザーという名前で広まった、熱を利用せず衝撃波で治療するレーザーの登場もありました。
使いこなす技術の面では、冷却装置の改良で皮膚面に蓄積する熱量を抑えることによりレーザーで脱毛ができるようになり、更にはダウンタイムのない美容的照射法が広まり、フラクショナルレーザーという概念が生まれたことが画期的でした。ラジオ波などと組み合わせてより深い治療が可能になり、複数の波長を組み合わせて同時に治療する方法(マルチプレックス治療)も開発されました。

light

しかし、変わらないこともたくさんあります。
結局レーザー治療の仕組みは、(ピコ秒レーザーや低出力レーザーなど一部を除き)光を生体に吸収させて特定の物質を加熱し、熱によって破壊変成した組織が回復するのを待つ、という単純なものです。どの部分をどの程度加熱し、他の部分を熱から防ぐか、ということにつきます。
人間の皮膚は非常にデリケートなので、設定を機械に任せていては適切な治療はできません。1ショットずつ、皮膚の反応を見ながらエネルギーを微調整する技術こそが、良い結果を生む、という原理は今後も変わりそうにありません。

レーザーの概念を簡単に

古典的(ニュートン力学的)には、光は光子という粒子が秒速30万キロという超高速でまっすぐ飛んでいくものと考えられ、光のエネルギーは単純に光子の数で測られることになります。
しかし電磁気学では光は波動(電磁波)の性質を持ち、波長によって色やエネルギーが変わるだけでなく進行方向に向かって回転したり、媒質の中で屈折したり干渉したりします。このため身近なものに例えて説明することがなかなか困難です。

物質は加熱されるなどしてエネルギーが高まると、そのエネルギーを放出して元に戻ろうとするのですが、物質によってエネルギーの放出の仕方に特徴があり、特定の波長の光を放出する場合があります。こうした物質をレーザー媒質と言います。レーザー媒質にその特定の波長の光を照射すると、入力された光に誘導されて全く同じ波長の光を大量に放出して、光の増幅が起こります。この時誘導される光は波長だけでなく回転の方向や位相が完全に揃っているため、拡散することなく一定の方向に直進する細いビームになります。
このビームを鏡などで反射させてレンズで集光し、目的のものに照射することによって対象物を加熱することができます。これがレーザーの主な使用法です。

レーザーは普通の光とは違うのか

フォトフェイシャルなどに使うフラッシュランプ(IPL: Intensive Pulse Light)は発光源がレーザー媒質ではないので、様々な波長の光の混合です。太陽光などと同じで紫外線から赤外線までを含んでいます。ですから、治療に用いるには有害な紫外線や治療の役に立たない波長をカットするためにフィルターを使って一定の範囲の波長のみを取り出します。しかし、回転方向や位相が揃っていないため拡散しやすく一定の方向には飛びません。皮膚に効率よく吸収させるためにはジェルなどを使って皮膚に密着させる工夫が必要です。また様々な物質に吸収されるため、特定の目的物(例えばメラニン顆粒)などに適切なエネルギーを照射することが難しく、有害な副作用を避けるためにはエネルギーを下げて安全性を確保する必要があります。

物質により吸収されやすい波長が決まっているために、特定の波長の光だけを照射することができれば選択的に目的の物質だけを加熱することができます。例えば赤あざの治療に用いられる色素レーザーは赤血球のヘモグロビンに特によく吸収されるため、周りの組織を傷めずに血管だけを熱変性させることができますし、水に吸収されやすいCO2レーザーであれば、すべての細胞が水分を含むため無選択に全ての細胞を熱変性させることになります。

最初に赤あざの治療に用いられたルビーレーザーは、実は赤血球にはあまり吸収されずメラニン色素に吸収されやすいため、赤あざの治療には不向きなことがわかり、今はメラニン色素の疾患であるシミやちゃあざ、青あざの治療に主に使われています。

まず初めに熱緩和理論

真空中に黒体(全ての波長の光を吸収する黒い物体)の球が浮かんでいるとします。
その球体にレーザービームを照射すると、照射されたエネルギーを吸収して球体の温度が上がります。高温になった球体からは周囲にエネルギーが流れ出します(球体が光り始める)。照射を止めると球体の温度は下がり始めます。ピーク時の温度の半分に温度が下がるまでの時間を測ります。これが熱緩和時間と呼ばれます。

選択的熱破壊理論

熱緩和時間に相当する時間継続して球体にエネルギーを照射すると、その間はエネルギーは球体の温度上昇に使われ、球体から周囲への熱の放射は起こりません。つまり、周囲に熱が漏れることなく標的の物体だけを加熱できます。十分なエネルギーを与えれば物体だけが高温になり熱破壊が起こり、周囲へのダメージを最小限に抑えられます。

脱毛したい毛の毛根を、上記の黒体の球になぞらえます。理論上の熱緩和時間に相当する時間(パルス幅)でメラニン色素に吸収されるレーザー光を照射すれば、周囲の組織を火傷させずに毛根を加熱変性させ、脱毛することができるはずです。これがレーザー脱毛の理論です。

実際にはそんな単純な話ではない

上記の理論に基づいて多くのレーザー脱毛器が作られ、各メーカーが条件を満たすための照射時間や冷却方法等について特許を取得しています。確かにわかりやすく魅力的な理論ですが、実際に運用しいてみると実はそんな単純な話ではないことがわかります。理論通りに照射しても毛は抜けないことがあるし、全く違う照射法でも脱毛が起こることがあります。

最初の前提を思い起こしてみましょう。真っ黒な真球が真空中、なのでした。実際の毛球は球形ではないし真っ黒でもありません。メラニン顆粒をたくさん持って黒いことは黒いが水やタンパクなど色々な物質を雑多に含んだ細胞の不整形の大集団です。周囲は真空ではなく水を含んだ皮膚の細胞や血管、コラーゲン繊維などにぴっちりと囲まれ、血流で絶えず冷却されています。照射した光が毛球に届くまでには何層もの角層で反射、吸収、散乱、屈折が起こり、真皮のコラーゲン層でも吸収、散乱されます。レーザー光そのものは真空中では平行光線ですが、ハンドピースを出た途端に空気中で散乱・拡散し、複雑に屈折して組織中で色々なものに吸収され減衰します。
結局理論は理論であり、実際にはやってみなけりゃわからないのが実情で、おそらくどの施設でも経験則でエネルギーや照射条件を加減しているはずです。経験の少ない施設ほど、メーカーのおすすめ設定で治療して失敗しているはずです。ただ、照射条件を加減する際に、理論的背景がわかっていて工夫するのと、よくわからないが前よりちょっと強くしてみよう、という態度とでは成功率に差が出てくるだろうと予想されます。

治療ターゲットの性質と治療理論の基本は押さえておく

この間より強く当てますね、だけでなく、なぜ前回の脱毛が予定通りの結果を得られなかったのかをきちんと検証しましょう。確かに理論通りにはいかないのですが、それでも理論の意味は勉強しましょう。そういう施設が増えればいいのですが。

大江橋クリニックでは、主にQスイッチ付ルビーレーザーを用いて治療を行います。それは一体なぜでしょうか。

Qスイッチ

Qスイッチはレーザー発振器の途中に設置してQ値(大雑把に光の透過性と考えて良い)を変化させることにより非常に短時間の間に溜め込んだエネルギーを放出してジャイアントパルスを発生させる装置です。Qスイッチ付きレーザーの場合、例えばルビーレーザーでは通常数ナノ〜数十ナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)という時間に1平方センチあたり数ジュールのエネルギーを照射します。

超短時間に照射されたレーザー光は吸収された物質を瞬時に加熱します。物体は小さいほど短い熱緩和時間をもつのが普通なので、このくらいの短時間では細胞内のメラニン顆粒などの小器官が熱破壊され、その結果メラニン顆粒を多くもつ細胞が死滅します。シミの部分にはメラニン顆粒をたくさんもつ角質細胞が蓄積しており、また表皮化の真皮層にも滴落したメラニン顆粒を貪食した組織球などの細胞がいるため、それらの細胞が死んで剥がれ、皮膚組織の再生が起こります。
表皮細胞の再生は通常あまりメラニン顆粒を持たない基底細胞が生き残って分裂することによって起こり、1週間程度で薄い角層ができて上皮化します。Qスイッチでないレーザーで長時間の照射を行うと、周囲組織にも熱の流出が起こるためより深い範囲に熱障害が起こり、やや深く皮膚が剥がれるため上皮化に時間がかかります。状況によっては瘢痕化して傷が残ります。
このように選択的にメラニン顆粒を持った細胞のみを傷害するため、いわゆるシミの治療にはQスイッチ式レーザー(ルビー、アレキサンドライト、YAGなど)を用います。波長により吸収性が異なるため、皮膚反応がやや異なりますが、いずれもシミの治療に用いられます。
大江橋クリニックではその中で最も使用経験の長いルビーレーザーを選択して導入しています。

Qスイッチ式ルビーレーザーを新機種に更新しました

昨今の世界情勢により半導体の入手が困難になる中、昨年からお願いしていたレーザーがようやく完成し2022年8月に納品されました。非常に優秀な機器です。旧機種も長い間活躍してくれましたが、やや出力が落ちスポットの周辺と中心とのエネルギー差が無視できなくなってきたため、他の機器と共に製造元に連れ帰っていただきました。お疲れ様でした。

CO2レーザーの特徴

CO2レーザーも1963年以来様々な分野で使われた非常に有用なレーザーです。
連続発振ができビームを細く絞って出血の少ない切開に用いるなど、形成外科分野ではレーザーメスとして使用されることが多いのですが、大江橋クリニックではウルトラパルスモードを主に使いイボや黒子の蒸散に用いています。

ピークパワーの高いウルトラパルスをさらに0.1秒ごとに断続的に用いて、直径0.1ミリ程度に絞った細いビームで点状に皮膚をけずりとっていく使い方をしています。

CO2レーザーも新機種に更新しました

このレーザーも上記のルビーレーザーと同時に新しいものに更新しました。旧機種とはほとんど性能は違いませんが、より細かな調整ができるようになりました。旧機種はガイドビームと実際に照射される赤外線の当たる位置が0.2ミリほどずれ、スポットも完全な点状ではなくなっていました。もちろん十分使用には耐えますが、非常に正確な治療を行いたいとき頭の中でズレを計算に入れる必要があり疲れるのが更新した理由です。手元に置いておく選択肢もありましたが、製造元にお返しすることにしました。長い間お疲れ様でした。
新機種は本当に優秀です。思ったところに正確に0.1ミリの誤差なくスポットを合わせてくれます。これからどんどん活躍してもらいたいと思っています。

付録: 美容と脱毛に使っているレーザーたち