いわゆる柔道耳(スポーツ外傷後の花キャベツ状耳)
いわゆる柔道耳は外傷を契機として変形するため、受傷の位置や頻度、出血の程度などにより形は様々で、一定の手術様式がありません。多くはバラバラに壊れた軟骨をできるだけ元の位置に整復しながら増殖した部分は切り取り、欠損した部分には切除した軟骨の一部を移植することにより形成します。難易度の高い手術となります。
ICD10分類 : M00-M99 筋骨格系及び結合組織の疾患 > M95-M99 筋骨格系及び結合組織のその他の障害 > M95 筋骨格系及び結合組織のその他の後天性変形 > M95.1 花キャベツ状耳
Cauliflower-ear deformity(カリフラワー耳)は,ICD-10分類上の正式病名を「花甘藍(きゃべつ)状耳」と言いますが、別名柔道耳,相撲耳(力士耳)、レスラー耳( wrestler’s ear)などともいわれ,形状から俗に餃子(ギョウザ)耳などとも呼ばれます。
上記の格闘技のほかラグビーなどの球技や事故、暴行などによる外傷、膠原病や血液疾患、飲酒後などに硬い床で寝る習慣などでも生じ、また特に誘因のはっきりしないものやアトピー性皮膚炎による掻爬に続発するもの(カリフラワー耳を生じたアトピー性皮膚炎症例の1例 角ら 耳鼻咽喉 72-12:839-842 2000)などもあります。
アトピー性皮膚炎によって起こったと思われる症例は、大江橋クリニックでも数人経験しています。その多くは正常に治癒しなかった耳介偽嚢腫に続発したものと考えています。
花キャベツについて
カリフラワー↓ 葉牡丹(ハボタン)↓ 写真はWikipediaより引用
花キャベツはカリフラワーのことです
最近園芸関係のネットを中心に「花キャベツ」を葉牡丹の別名として紹介している記述が見られます。葉牡丹の英名が"flowering cabbage"であることからくる誤解と思われます。葉牡丹と日本名花キャベツ(カリフラワー)は別種です。カリフラワーはドイツ語で "Blumenkohl"(花キャベツ)といい、医学用語はドイツ語由来なので、カリフラワー状に変形したいわゆる柔道耳は「花キャベツ状耳」というのが正式病名です。
反復する外傷により,軟骨膜と軟骨との間、または軟骨の割れ目を介して軟骨内の間隙に出血が繰り返され(耳介血腫)、炎症を起こしてその部分が徐々に線維化,瘢痕化,石灰化などするために、軟骨そのものも破壊と修復を繰り返して、細かく割れては盛り上がり複雑な変形が生じます。また私見ですが、体質的な原因によると思われる皮膚の肥厚性瘢痕もそれに加わって分厚い結合組織が軟骨を覆います。
硬くなって「柔道耳」化したものは形成外科的手術で軟骨や石灰化した瘢痕を切除しなければ治すことはできません。出血や打撲を繰り返したものでは見た目の軟骨の変形がわずかであっても、厚さが増し硬さが残り、圧迫すると痛みが生じるため寝返りが打てないなどの自覚症状が長年続くことがあります。
大江橋クリニックでは、耳介軟骨形成の手術は平日午後の手術時間に行っています。柔道耳の場合、皮膚からのアプローチで軟骨を綺麗に露出するまでに時間がかかることが多く、手術終了まで3時間以上かかることもあります。軟骨を彫刻して耳の形を削り出していくような手術になります。
予約日は通常1ヶ月程度先になります。近年健康保険の査定事例が増加し、柔道耳に関しては保険の支払いを拒否されるようになりました。そのため大江橋クリニックでは柔道耳の再建手術は自費で行います。ご了承ください。
手術当日は車の運転、入浴はできません。翌日再診していただき、問題なければ入浴や洗髪は可能になります。軟骨を削る手術はどうしても術後に痛みが出ます。鎮痛剤を処方しますが、当日翌日は触らなくても痛いです。痛みは日毎に少なくなります。
通常1週間後に抜糸、傷跡が綺麗になってくれば通院は終了となります。
※ 柔道耳の手術は、難しい
柔道耳の手術は、一言で言って難しいです。それは、手術直後は綺麗になったと思っていても、腫れが引いていくと徐々に変形してくることがあるからです。
耳の肥厚性瘢痕に関してはあまり資料がありませんが、体質的な原因が主体だと思っています。そもそも柔道耳になってしまうこと自体が、体質的なものかもしれません。
通常腫れが引いていく頃になって赤みが増し、腫れぼったく厚みも出てくる人がいます。数ヶ月経ってようやく赤みと腫れが引いてくると、ずっと腫れていた皮膚がしぼんで予期せぬところにシワが出てきたりして、予定の形になってくれません。手術を試験に例えると、100点取ろうと思って頑張るのですが出来上がりが80点の人も60点の人も出てきてしまいます。
様々な工夫で良い成績を目指していますが、今のところそれが現状であることを告白しておきます。
以下の症例もそうした観点から選んでいます。
症例1 手術中の写真は彩度を落とすなど少し編集しています
約15年前の症例です。25年前から放置していた40代男性の柔道耳の例。耳輪が折れてΣ型になり横方向に縮んで細くなってしまった。対耳輪は複雑な形状に変形して耳甲介を塞いでいる。手術に際しては、複雑に凸凹している皮膚を一定の厚さで剥離して皮弁にし平らに伸ばせるかが勝負になる。
バラバラに砕け変形して重なり合っている軟骨を慎重に外し、削って形を整えてから位置を変えて縫合していく。
左は手術中に仮に皮弁を戻してみたところ。幅が少し広がり耳輪の丸みも出てきた。もう少し微調整してから切開したところを縫合する予定。
1週間目に皮弁を固定しているボルスター固定を外すと、皮弁は表皮が壊死してびらんしていたが、軟膏治療等で回復は見込める範囲。耳甲介の窪みと耳輪の丸みがうまく表現できていないが、ご本人もこれくらいならと了承いただける範囲。希望があれば再手術可能であることを伝える。
中央の術後1ヶ月の写真では、耳の厚さは手術直後の半分くらいになりいく分腫れが引いてきたことがわかる。左の術前と比べると改善はしているが、耳甲介の深さや対耳輪の輪郭がはっきりしていない。右の手術していない方の耳の写真と比較すると、まだ耳の厚みは倍くらいあり、今後数ヶ月かけて腫れが引くともう少しシャープに輪郭が出てくると思われるが、1ヶ月目でこれくらい腫れているのは仕方がない。以後の通院がなく最終的な結果は不明。
症例2 手術中の写真は彩度を落とすなど少し編集しています
約14年前の症例。柔道耳に対し、初診の10年ほど前に大阪大学で耳介形成手術を受けたが、満足な結果にならなかったとのことで受診したとのこと。右の2枚の写真は手術当日のもので、耳輪が波打っていて厚みも不揃いである。おそらく術後の経過で変形が進んだものと思われ、再手術に際しても注意が必要。
手術中の写真左は耳輪軟骨が一部欠損し、波打つように変形していることがわかる。変形を矯正して、中央の写真のようにしっかりとボルスター縫合で固定する。左の写真は抜糸直後で、上側の不自然な膨らみはだいぶ改善したように見える。
しかし術後2ヶ月半経ってもなかなか腫れが引かず、左の初診時の写真と比べても軽度の改善にとどまっている。右の写真の正常な右耳と比べると耳全体の厚みも倍くらいある。腫れが引くのを待っているうちに受診が途絶え、この方も最終的な経過は不明。このように柔道耳の場合、術後の腫れ(肥厚性瘢痕)が非常に長引くケースが多く、最終結果(2年くらいかかることもある)を追えないで治療終了してしまうことも治療を難しくしている。
症例3 手術中の写真は彩度を落とすなど少し編集しています
約8年前の症例。50代男性。学生時代に柔道耳になったが、結婚することになり改善したくなった。変形が激しく内部構造はさておき耳輪を丸くすることを目指す。軟骨はバラバラになっていることが予想され表面の皮膚もかなり凸凹している。
術前のデザインの最大の問題は、術後に耳輪となる皮膚の内側に来るように切開線を設定すること、2番目の問題は耳輪と対耳輪の軟骨をどこから採取するかである。右の手術中の写真を見ると耳輪軟骨が何枚にも分かれてバラバラになっている。これらの軟骨を一度耳から取り出し、耳の形になるように組んで移植するので、テクニックとしてはあらかじめ材料が確保してある小耳症よりも難易度が高い。
皮弁は厚みが不均一でしっかりボルスター固定しないと浮き上がって血腫になり壊死してしまう。1週間目に外すと表皮壊死になってしまっていたが、この程度であればきちんと治療すれば治ってくれる。右の写真は中央の写真の10日後だが、まだ一部ビランが残りテーピングしてカバーしている。
ちょうど術後1ヶ月目の写真。かなり腫れているが術前と比較するとだいぶ改善している。
術後6ヶ月目の写真。腫れが引いて、瘢痕が縮み皮膚に皺が寄ってきてしまった。修正するなら大掛かりなことをせずシワのよった皮膚をぬい縮めるなどしてより自然にできると提案するが、イヤホンが入るようになり形もある程度改善したのでもう良いということで終了となった。