耳介の形成手術は自費で行っています
健康保険の診療報酬に規定がある「耳介形成手術」は、例示されている病名がいずれも先天性の疾患であり(軟骨を形成する必要がある「耳輪埋没症」と軟骨形成の必要がない先天性の「耳垂裂」の二つだけ)後天性の(ケガや病気による)耳の変形については保険適応がありません。
先天性の耳の変形にはこの他立ち耳、スタール耳、折れ耳、コップ耳、垂れ耳などと呼ばれるさまざまな症状があり、また耳全体が大きい大耳症、耳たぶの形の大小や左右差など手術で改善が可能な症状も非常にたくさんあります。
しかし「耳の形を変える手術」はほとんどの場合見た目の改善を目的として行われますので、もっぱら美容を目的とする治療は健康保険の対象とはならないという厚生労働省の基本姿勢からも保険適用は困難です。
立ち耳の形成手術も自費で行っています
「立ち耳」に関しては健康保険で手術を行なっている医療機関があり、保険の適応となる耳の角度などと書いているところもあります。大江橋クリニックでも相談を受けることがあります。 自費診療とするのは大江橋クリニックの方針というわけではなく、厚生労働省(近畿厚生局)の見解(単なるたち耳の矯正手術は見た目を改善する美容手術であり健康保険の適応外)に従ったものです。直接問い合わせて回答をもらっています。健康保険で行うのは違法行為になります。ご承知おき下さい。
その他の形成手術も原則的に自費で行っています
保険適応として明示されている外耳の疾患にはこのほか小耳症、副耳、先天性耳瘻管(耳前瘻孔・耳後瘻孔)などがあり、こうした耳の先天異常は他の医療機関で健康保険で手術を受けることもできます。しかし大江橋クリニックで出来るだけ自然で左右対称な耳に近づけるようにするため全層植皮術(自己皮膚移植術)や皮弁術、軟骨移植術(自家軟骨移植術)などを併用してきれいに仕上げた場合、その必要性をコメントしても保険の審査が通らないケースが多いのが現実です。保険医療は破綻しかけています。最善な結果を求めた結果生じる保険者とのトラブルを避けるため、現在は耳の形成手術はすべて自費で行っています。
※ (堅苦しい原則論)柔道、レスリング、相撲、ラグビーなどは外傷を負う危険性を承知のスポーツであり、事故とはいえケガをしたのは自己責任であるから(酒に酔って階段から落ちた場合などと同様)保険は適用されない、と考えることもできます。ピアスなどのトラブルによる耳切れも原因がピアスを開けたこと(美容目的)であることから、その結果と考えると自己責任の範疇といえます。暴行などによるものは加害者がいるため、治療費は加害者が負担するべきもので保険は適用されません。立ち耳などの美容手術後の変形の修正は、美容目的の手術の結果であるため再手術も美容手術となります。健康保険は原則的に自分に発病責任のない病気で社会生活が困難となった場合に、社会復帰を援助する目的で適用されます。
耳の手術は難易度が高く時間がかかります
耳介形成術と同じくやや専門的な技術を要する「眼瞼下垂症手術」は健康保険適応手術の場合手術料(麻酔やお薬代、入院費などは含まず)片側72,000円(実際には三割負担のことが多いので、窓口負担は21,600円)ほどですが、耳の手術は単純な耳介形成手術(軟骨形成を伴う)が片側192,400円(自己負担57,720円)と2.5倍程度に設定されています。より複雑で入院も必要な肋軟骨移植を伴う小耳症手術では、耳介挙上まで含めて片耳で708,800円ですし、当院で柔道耳などに対して行う軟骨移植・植皮または皮弁などを同時に行う複雑な場合は合計すると片側で48万円程度となり、3割負担の場合で自己負担約15万円ほどになります。(あくまで保険が適用できる条件を満たしている場合です。)
大江橋クリニックで行なっている耳介軟骨形成手術は、一般の美容外科等でも行われている簡便な立ち耳修正手術など(耳の裏を小さく切って糸で軟骨を縛って曲げる)とは違い、皮膚をいったん除去して軟骨を直接形成する、侵襲も大きく時間のかかる手術です。(通常片耳で2時間〜を要します。)これは難易度の高い手術で行っている医師も限られます。
保険手術料金は消費税がかからず、医師の経験や技術も加味されず(例え研修医がやっても同じ料金)経費や利益、広告費等も度外視した公共料金的な低廉な価格が設定されています。美容外科で行う自費手術料金は消費税・事業税やさまざまな経費、宣伝広告費なども含むので保険と同じような料金設定をしていては普通は経営が成り立ちません。そこで二重瞼の手術などは、類似の健康保険の手術(睫毛内反症手術や眼瞼下垂症手術)に比べて3〜10倍程度に設定されているのが普通です。耳の手術も例外ではないのですが、大手美容外科などでは比較的簡単な立ち耳手術でも片側20〜30万円程度に設定されている事が多いようです。(瞼で言えば埋没法による二重瞼手術に相当するような糸で縛るだけの簡単なもの)
大江橋クリニックで行なっている手術は複雑で時間のかかる手術法でありながら、健康保険とあまり変わらない片側30〜50万円(税抜)程度に設定しています。(本当は経営的なことを考えれば60〜100万円くらいに設定したいところです。)
大江橋クリニックでは以前から患者さんの負担をできるだけ軽減したいと思い、できる限り安い費用で手術を行ってきたのですが、手術時間を考慮すると採算点を割り込む事例もあります。今後も多くの患者さんに当クリニックの技術を提供し続けるためには、経費に見合う適正な費用をいただく必要があると考えるようになり、一部の手術料を少しだけ改定しました。しかし現在の手術費用でも実際に行う手術内容に比べかなり良心的であると考えていますので、ご理解をお願いいたします。
耳介形成手術の保険適応条件
健康保険の手術料として私たちが参照するのは、2年に一度改訂される診療報酬点数表です。その耳介形成術の欄に注(厚生労働省通知:実施上の留意事項について)がついていて、耳介形成術は「耳輪埋没症、耳垂裂等」に対して行なった場合に算定する、と書いてあります。その他の耳介の変形については何も規定されていないため、普通に読めば保険適応はありません。
K296-1 耳介形成手術(耳介軟骨形成を要するもの)の適応:
基本的に耳輪埋没症(埋没耳)に適用される手術です。いわゆる袋耳(コップ耳、折れ耳、垂れ耳など、形によって様々な呼び方がある)など片方の耳介軟骨の発達が悪く十分に展開されなかったような場合、軽症型と考えて保険適応してもよいのではないかと考えます。しかしこれはあくまで医師個人としての考えで、他院での保険適応を保証するものではありません。
K296-2 耳介形成手術(耳介軟骨形成を要しないもの)の適応:
耳垂裂とは、通常耳垂(耳たぶ)が丸い形に整わず、2つに避けたように見えるものを言います。正常側に比べて耳たぶ自体も一部が欠損したように小さいものが多いようです。日本形成外科学会の定義によれば「生まれつき耳垂が割れている状態の耳介先天異常の一種」とあり、ピアスによる耳切れなど外傷性の後天的なものは含まれません。
※ 厚生労働省の関連機関である近畿厚生局に問い合わせた結果、ピアスによる耳切れは適応外である旨の回答をいただいており保険適用はありません。事故や暴力等による場合は別の理由(別に加害者がいる場合は健康保険の対象にならない)で保険適応となりません。
耳は聴覚を司る感覚器としての役割のほか、幾つかの重要な機能を持っています。『聞こえ」に関する異常や病気は主に耳鼻科が扱います。しかし、頭の外に突き出した部分(外耳)は特殊な軟骨(弾性軟骨)を皮膚で包み込んだ複雑な形をしており、主に皮膚科、形成外科、美容外科が扱います。
形成外科、皮膚科が担当する疾患で健康保険の適応となるのは、皮膚や軟骨の病気、形の異常のうち、患者さんの健康や耳の機能を損なっていると思われる場合です。
皮膚炎やできものは、ほとんどの場合保険治療の対象となります。ケガに関しては、事故や他者による傷害、自傷は保険の対象になりません(ですから柔道耳、転倒による外傷、ピアスによる耳切れなどは状況により判断が分かれます。)
先天的な形の異常のうち、健康保険で耳介形成術の対象となるのは、原則的には小耳症、耳輪埋没症、耳垂裂のみですが、これらはメガネ・マスクの着用に支障があるためと考えられ、見た目の醜状とは全く無関係です。
袋耳(コップ耳、折れ耳、埋没耳など、形によって様々な呼び方がある)、スタール耳などの形の異常も場合により保険適応が認められる場合もありますが、外見が異常であるかどうかよりも機能障害の程度によって適応が限られると考えられます。
いわゆる柔道耳なども状況により保険適応が認められる場合がありますが、イヤホンが入りにくい、メガネがかけられないなどの機能障害の程度が重要で、外見で適応を決めるものではありません。
立ち耳は文化的社会的状況によっては生活上の不利益はあるかもしれませんが、機能的障害は明らかでないので保険適応は認められません。
このほか、耳たぶや外耳(耳介)そのものの形を変え、大きくしたり逆に小さくしたり、丸みをもたせたり角度の微調整をしたりと様々な手術治療が可能ですが、概ね美容外科が担当する自費診療となります。
耳のあざ(多くは血管腫や母斑など)もレーザーなどで治療可能ですが、レーザー治療の多くは保険適応がありません。耳のレーザー脱毛やピアスの穴あけなども保険診療の適応外です。
健康保険の適応とは見なされないのは「耳の変形」が社会生活上著しく不都合とまでは言えない、自己責任である、「耳の機能」と密接な関係にないなど、「耳の形」の修復が「美容的な問題」と見なされるためです。
機能的な意味での「耳介形成」とは、メガネやマスクをかけられるようにするため、あるいは耳の聞こえをよくする(例えばイヤホンや補聴器が入りやすくなる)ために行うものなのです。そう考えると、保険適応の有無が理解しやすいと思われます。
※ 耳の聞こえ方(聴力)や耳の穴の内部の問題は、耳鼻科の領域であり大江橋クリニックでは一部の外耳道形成手術を除き扱いません。
※ イヤホンが入りにくい、という訴えで耳甲介形成を行ったケースがありますが、これもグレーゾーンです。確かに形態の異常が耳の機能を損なっているため健康保険を適応すべき症状とは思うのですが、明確な規定はないのでケースバイケースと思われます。
お問い合わせが多いご相談ですが、その多くは「立ち耳の手術を保険でやっているか」というお電話です。立ち耳の手術には保険を適用することができません。
※ 厚生労働省の関連機関である近畿厚生局や健康保険審査機関に問い合わせて確認したところ、単なる立ち耳の手術に健康保険を適用する事はできないとの返事をいただいております。
大江橋クリニックでは立ち耳の手術に関してはすべて自費治療とさせていただいております。
他の医療施設で保険で行っているとの情報は多々耳にしますが、何か別の病名を便宜的につけて保険適応としているとすれば、医師の好意とはいえ「診療報酬の付け替え請求(本来保険請求できない処置を、別の病名や手術名に付け替えて請求する)」という違法行為となります。
保険でやっている医療機関を教えて欲しいという問い合わせもありますが、上記のように個々の医師が危険を冒して患者さんに便宜を図っているのだと思われますので詳細を書くことはできません。
ただし、患者さんの耳の状態が本当に「立ち耳」なのか、は診察を受けていただかないとわかりません。
耳介(外耳)の形には多くのバリエーションがあり、先天性耳介形成異常の病名で保険適用できる可能性もあると思われます。
日本を含むアジア諸国では、文化的社会的に耳の形に関しては許容度が高く、立ち耳に関しても、特に子供の頃には「ミッキーマウスのよう」「おさるさんのよう」などと、むしろ「かわいらしい」「愛らしい」ものとして愛される傾向があります。
最近でこそヨーロッパ的な習慣が広まり、またピアスを着用する際に美しく見えないなどの理由から手術を希望する方が増えましたが、一般に社会生活上著しい不都合があるとは考えられず、通常は健康保険の対象となりません。
機能に関しても埋没耳のようにメガネやマスクがかけにくいと言ったこともなく、通常は機能的な問題は少ないと思われます。ただし、特殊なヘッドセットを業務上使用しなければならず、常時耳介が圧迫される為耳輪に潰瘍を生じた患者さんが来られたことがあり、この方の場合は機能的な問題を解決するために健康保険で手術を行いましたが否認されませんでした。