「瘢痕拘縮形成術」の対象にならない傷跡
けがや手術の傷痕が「運動制限を伴う」高度なものであれば「瘢痕拘縮形成術」の対象となり、健康保険で治療が受けられることがあります。しかし傷痕が大きく醜いものであったり、長期間消えずに残り、もっときれいに治したい場合でも、運動制限を伴わない場合、傷跡治しの手術は通常自費になります。
拘縮とは傷が引き攣れているという意味で、引き攣れを伸ばす事で「運動制限を解除する」すなわち関節などを動きやすくする場合に限って保険が使えることになります。
ですから顔面の「瘢痕拘縮形成術」は瞼や口などのように動く部位に限って認められ、額や鼻などのように本来動かない場所は、いくら傷跡が目立ったとしても運動制限がなく認められません。その他(顔面以外)の場合も同様に、通常は関節部分が拘縮している場合に限られ、その他の部位(腕や脚、背中など)では認められないのです。
耳の変形を整える手術
外傷などの結果軟骨が著しく変形した場合などは保険適用されても良いと(個人的には)思いますが、診療報酬の注には示されていません。
柔道耳など激しいスポーツの結果生じた場合には自己責任の範疇であるともいえます。
ピアスの穴が裂けた場合も、原因がピアスを付けた事により生じているので自己責任です。
ピアス部に生じたケロイドや腫瘍は、ピアスが原因かもしれませんができものですので切除は保険でできるようです。
しかし切り取ったあと大きな変形が残っても「耳介形成手術」の対象にはなりません。
立ち耳は先天的な形態異常ですが、社会的文化的に許容されているので「病気」とは見なされません。
しかし埋没耳は奇形と見なされ「耳輪埋没症」という病名で耳介形成手術が受けられます。
耳が生まれつき欠損しているか非常に小さい小耳症は「小耳症手術」の保険適用が明記されています。
耳の大きさが何センチならば、変形の程度がどれくらいならば小耳症と呼べるかは決まりがありません。
瞼がたるんでいるが「眼瞼下垂症」ではない場合
加齢とともに瞼の皮膚は徐々に伸び、たるんで睫毛の上に被さるようになってきます。
これは眼瞼下垂でしょうか。眼瞼下垂症は、眼瞼挙筋の働きが低下して起こるものをさすのが本来です。
加齢による皮膚の延長の場合は筋肉の働きは損なわれていません。皮膚切除は美容手術として行います。
眼瞼挙筋腱膜が瞼板から離れて上方に変移していることが明らかな場合「腱膜性」眼瞼下垂症として保険で扱うのは許されるでしょう。
眼瞼下垂症手術は、挙筋前転法または吊上げ法で行なうのが普通ですが、「その他の術式」という項目もあるため、皮膚切除などが許されないわけではありません。
しかし眼瞼挙筋の働きが正常な場合は、そもそも眼瞼下垂症ではないので「老人性皮膚弛緩症」などと名付けて自費でシワとり手術を行なうのが一般的です。
また糸で行なう埋没法のようなタッキングや皮膚切除のみの場合は「前転法」を適用する事は難しいと思います。
挙筋前転法には皮膚切除は含まれないとして、皮膚切除は「自費」で別途請求する医療機関もありますが、本来これば「混合診療」にあたり認められないと思われます。
タルミ取り手術は「美容」ですから本来は全額自費になります。
二重の幅を何ミリと要求される方がいますが、これは美容の範疇となり保険適応の手術では要求に応じるべきではないでしょう。もちろん「自然に」「控えめに」程度のお話であれば整容的な努力はするべきですが。
エステで脱毛治療を受けてやけどした
いわゆるエステティックサロンなどの施術業者は、脱毛やしみとり、アートメイクなど人体に傷害を与える可能性のある行為を行なう事が禁じられています。違法行為の結果傷を負ったという事なので、加害者には傷害罪が適用されますし被害者には加害者に損害賠償請求する権利があります。
「第三者行為責任」という方法で保険診療を受ける事も不可能ではありませんが、この場合ご本人から保険者に賠償請求権が移り、後あと非常に困る事があります。(これを逆手に取って「すぐ保険で診てもらうように」言って被害者本人との賠償交渉を避けようとする場合もありますので、注意が必要です。)
明らかに事件性のある場合だけでなく、マッサージを受けたらクリームにかぶれた、などの場合も施術業者に行為責任があると考えられますので、保険診療の扱いをしない様にしています。本当にかぶれが原因かどうかの特定は難しいため、保険診療を行なうと誰が誰にいくら支払うべきかについてもめる場合があるためです。