【 完全予約制 】予約の取り方 ▶︎

下眼瞼(下まぶた)のたるみ取り手術
〜 Lower Eyelid Reconstruction 〜

皮弁法で手術しました。下にずり落ちた眼輪筋を横に引き締めてから皮膚を被せ、一部を切除しています。炎症性疾患があり、白内障の手術後で逆まつげもありました。抗生剤も一般的なものが使えず、傷の回復には厳しい条件でした。皮膚剥離による皮下出血がかなり広範に生じ、術後1ヶ月半くらいでようやく落ち着きました。右の皮下にしこりが残りまだ凸凹しています。切開した傷はほぼ見えません。


下まぶたの弛みに悩む人がたくさんいます

eyemake
illust

下まぶたのたるみ・ふくらみは、疲れた顔、老けた顔の象徴として漫画などで必ず眼の下に描き込まれます。年齢よりも老けた印象を与えてしまうため、顔のパーツの中ではなんとかしたいものの上位に入ります。
しかし、お手軽な方法で改善することは難しく、美容外科では様々な方法が行われていますが、なかにはお勧めできないものも多いのです。

イラストを整形する手間が煩わしいので、以下の説明に使っている図の一部はキーボードを打つ合間にボールペンで手書きして写真を撮ったものをそのまま上げています。お見苦しい点はご容赦ください。

たるみの原因について詳しく説明します

illust

頭蓋骨の眼の穴を思い浮かべてみて下さい。その穴の中に、あなたの眼球がはまっています。眼球を動かす筋肉と、視神経は奥の方から出てきて眼球につながっています。
眼球はロックウッドの懸垂靭帯(図の緑の紐状の部分、赤矢印は引っ張っている方向)というハンモック状のひもで支えられ、その周辺を眼窩脂肪が埋めています。脂肪はいくつかの袋に分かれて、クッションを積み重ねたように敷き詰められています。(横から見た断面図はネットを検索するといくらでも出てくるので、わざわざここには挙げません。)

眼球の前方には眼球にピッタリと沿って密着した瞼板という板状の組織があり、内側と外側にそれぞれの靭帯で引っ張り、眼球を抑え込むように覆っています。目を開けると下眼瞼の瞼板はそれに付着した薄い瞼板筋の腱膜で下方に引っ張り下げられます。(瞼板が眼球にピッタリ沿わず隙間が開くと、目の表面に涙の膜が形成されにくくなりドライアイ症状が出ます。後で触れる予定のハムラ法 - 特に「裏」ハムラ - の欠点と関連しますので、その際にもう一度説明します。)
瞼板筋腱膜の前に積み上げられた眼窩脂肪は、眼窩隔膜という丈夫な膜でそのクッションが前にはみ出てこないように抑えられています。

illust

眼窩隔膜の前には眼輪筋という筋肉が眼窩の穴を塞ぐように広く薄く覆っています。眼輪筋は、瞼板の前にあって瞼板が外反しないように抑える「瞼板前部」と、その下の眼窩全体を広く覆って眼窩隔膜が飛び出ないように抑える「眼窩部」とに分かれます。ちなみに、「瞼板前部」眼輪筋がいわゆる涙袋の正体です。笑うと収縮して盛り上がります。ヒアルロン酸を注入するなどして膨らませた涙袋は、目を開けても形が変わりませんが、正常な涙袋は目を大きく開けると小さくなり、ときには消失します。
目を閉じるときには眼輪筋が横方向に収縮してしその力で瞼板を上方に押し上げます。これが下まぶたの正常な構造です。

illust

非常に大切なことをここで述べます。下眼瞼を上に引っ張り上げる筋肉は「ありません」。
下眼瞼を上にもち上げるには、瞼板と眼輪筋を横に収縮させてピンと張る以外に方法はありません。吊り橋と同じです。ロープが緩めばアーチは下に下がります。

目の下が弛むとは、これらの構造のすべてが弛んでくること

illust

目の下が弛んでとびでてくるものの本体は眼窩脂肪ですが、それを前から飛び出ないように抑えているのは眼窩隔膜と眼輪筋です。
眼輪筋は土砂崩れを防ぐ砂防ダムのような働きをしています。従って、筋肉が弱ると、まぶたは弛んできます。その象徴が「涙袋の消失」です。瞼板前部にあった眼輪筋が吊り橋が緩むように瞼板からずり落ちて、瞼板の前が薄くなり凹んできます。

illust

ロックウッド靭帯が伸びて眼球が僅かに下に下がり、その下で座布団のように眼球を支えていた眼窩脂肪が前の方に押し出されます。脂肪が前に飛び出てこないように抑えていた眼窩隔膜も薄くなって伸び、その外側から下瞼全体を強力に後方に抑えていた眼輪筋も薄くなって伸びてきます。
このように下眼瞼全体の構造が薄く脆くなり、伸びていくことによって瞼は弛みます。ここで大切なことは、弛んでいるのは下眼瞼だけではないということ。あくまで皮膚が薄いために目立ってきただけであって、他の組織も全体として弛んでいることに注意してください。

なぜ若い人にたるみが増えてきたのか

眼輪筋も筋肉なので、使わなければ衰えてきます。
眼輪筋は眼をつぶるときに働く筋肉ですから、まばたきやウィンクのときに収縮します。
たるみを訴える患者さんに「ウィンクをしてみて下さい」というと、ほとんどの方が上手にできません。閉じる筋肉を使っていないのです。

illust

上眼瞼は目を開けるとき筋肉を収縮させないと持ち上がりませんが、下眼瞼は力を抜けば下がり、逆に力を入れると目が閉じます。目を開けている間は重力で勝手に瞼が下がっているので、閉じる筋肉は使いません。一番長く目を閉じているのは睡眠時ですが、この時は上を向いて寝ているために重力の影響は目の奥に向かいます。飛び出していた眼窩脂肪は元の位置に戻り、筋肉の自然な収縮力だけで目が閉じますから、全く努力は要りません。これが上眼瞼と下眼瞼の大きな違いです。

一日中パソコンや携帯などの画面に向かって文字をうったり画面を眺め文章を読んだりしていると、まばたきの回数が極端に減り無表情になります。
お友達と談笑している時などは、頻繁に表情が変わり、笑うたびに眼輪筋が強く収縮します。たるみがひどい方というのは、例外なく無表情で笑いが少ない方のように思います。

改善するにはまず筋トレ

眼輪筋を鍛えるのが、下瞼のたるみを引き締める最も基礎的な方法です。眼輪筋のトレーニング法は、本屋さんにいくと健康雑誌などに載っています。「フェイササイズ」「フェイスニング」などと呼ばれる表情筋のトレーニング法を描いた本などを探してみて下さい。最近は「顔ダンス」などというキーワードでXやインスタでもたくさんみつかります。

それでうまくいかない場合、いよいよ、美容医療の手を借りることになります。

眼窩脂肪を切除するのはお勧めできません

ネットの世界では「脱脂」などと呼ばれることがある方法です。
下まぶたの膨らみは脂肪がふくれて飛び出てきたように見えるため、飛び出た脂肪を切除すれば平らになるのではないか、と考えつく人がいます。
実際、そう考えて脂肪を切除する手術を行う美容外科医師もいて、特にまぶたの内側、結膜側から小さな穴をあけて眼窩脂肪を切除する「結膜脱脂」なる手術を行うクリニックが一時期インターネットで有名になったりもしました。

しかし、加齢とともに眼窩脂肪は減少しこそすれ、甲状腺疾患などの特殊な場合を除き通常増えることはないので、飛び出してきた脂肪は余っているのではなく、位置が変わって前に押し出されてきただけです。それを切り取ることは、眼窩脂肪の減少を招き、やがてはかえって老けた印象を与える原因ともなります。

illust

簡単な実験をしてみましょう。鏡を目の前に置き正面視して目を大きく開きます。下瞼の脂肪が飛び出しているところを軽く押してみてください。症状にもよりますが、下眼瞼が膨らんでいる人はたいてい上眼瞼が凹んでいます。押すたびに、凹んだ上眼瞼が少し膨らみ、凹みがやや改善して見えるのではないでしょうか。
もちろん上眼瞼の眼窩脂肪と下眼瞼のそれとは一体ではないのですが、下眼瞼の膨らみを押すことにより眼窩脂肪が少し奥に押し戻され、靭帯に支えられていた眼球が少し上に上がり、上眼瞼の奥の眼窩スペースが減少するため奥に引っ込んでいた眼窩脂肪が少し前に出てくるのです。

illust

もう一つ、ウィンクできる人は鏡を見ながら、出来るだけゆっくりと片目をつぶっていってみましょう。眼輪筋が目頭の方に引き寄せられ、それに伴って下瞼の膨らみが少し改善するはずです。(全くウィンクができない人や、眼輪筋が薄くなりすぎて裂けてしまったり収縮しなくなってしまった重症の人ではこの実験はうまくいきません。眼輪筋の引き締め手術を検討しましょう。)

脂肪を切除してしまうとどうなるか

脂肪を切除すると、一時的には確かに膨らんでいた部分が平らになり、劇的な効果があったように見えます。

それが最大の問題点で、被害者を増やしてしまう原因なのです。手術をすると、1〜3ヶ月ぐらいの間、下まぶたは腫れた状態になります。その腫れた状態が「平らである」ということは、腫れが治まり手術の影響が薄れてくると「凹む」ということでもあるのですが、そのことにしばらくは気がつきません。

illust

1年ぐらいして、眼の下が大きく凹み、脂肪を取ったことが不適切であったことに気づいたら・・・、今度は取りすぎた脂肪を注入する以外に改善法がないことになってしまいます。(写真は脱脂後に下眼瞼が凹んだ他院の症例)

脂肪を取りすぎた下眼瞼は、凹むだけでなくやや黒ずんだ色調になり、皮膚が弛んで小じわが発生します。

とりすぎた脂肪は注入しても元に戻りません

脂肪注入は、足りない組織を補いへこみを膨らませる優れた方法で、上手な医師が行えば良い結果を出すことができます。しかし、元々そこに自然にあった脂肪組織にはかないません。これは他の注入物でも同じです。

後から注入した脂肪は、傷跡の組織の中に不均一に散らばっているにすぎず、栄養血管の発達も不完全でいずれは半分程度が吸収され、瘢痕組織に入れ替わってしまいます。凸凹した硬い組織に置き換わってしまうため、後からきれいに修復しようとしてもうまくいかず、無理をすれば不均一な組織からの不規則な皮下出血や収縮が起こり手を加えれば加えるほど凸凹の目立つ結果になります。

取りすぎたら戻せばいい、という安易な考え方は危険です。最近は脂肪を抜いた後、間をおかずに他から採取した脂肪や成長因子、フィラーなどを眼窩隔膜の手前に注入して膨らませてしまう、一粒で二度美味しい美容手術を勧める医師までいますがとんでもないことです。手術は繰り返すたびに皮下に瘢痕組織を増やしていきます。傷跡はしょせん傷跡で、自然なテクスチャー・質感は失われていきます。大江橋クリニックで相談を受けたケースの中には、思ったようにならないからと10回以上も脂肪注入→切除→フィラー注入→注射で溶解→再度脂肪注入→切除…を繰り返した方もいました。本人ももう何をどの順番でしたかわからなくなっていて、手術してみると内部は地面をスコップで掘り返して埋めたような不規則な瘢痕だらけの状態でした。

では、脂肪を移動させる方法はどうでしょうか

Dr.Hamra

ネットの世界では、ハムラ法という眼窩脂肪を移動させる方法が最良であるかのように宣伝されています。
眼窩隔膜を破って、眼窩脂肪をその下側に追い出し、くぼみの部分に移動させて固定してしまう方法です。
(ドクター・ハムラの公式サイトは数年前からこの状態で、Xの方も5年ほど更新が止まっているようです。このため現在ハムラ先生自身がどのように考えているかは確認できませんでした。)

Dr.Hamra

この方法の最大の問題点は、下眼瞼を支えている組織を破壊して、構造を変えてしまうことです。実際にこの方法を行っている医師の一人は、自身のブログに、下眼瞼の固定が緩くなって外反(いわゆるアカンベエ状態)になってしまうという合併症が発生することが、悩みの種であると告白しています。

眼輪筋の弛みが原因です

下眼瞼のたるみは、眼瞼を前方から支えている眼輪筋と眼窩隔膜が力を失い脂肪が眼球の重さで前の方に押し出されてきたものです。(脂肪切除賛成派は、眼球はロックウッドの靭帯によって支えられているので脂肪を切除しても影響がないと主張していますが、実際には加齢とともに靭帯も緩むので、脂肪が前方に移動するとともに眼球もわずかですが下に沈み込みます)
これを元に戻すには、弱った眼輪筋を強化し、押し戻す力を復活させるのが最もふさわしい方法だと考えます。

実は、本来のきちんとしたハムラ法はこうしたことも考慮に入れて皮膚を戻しているのですが、脂肪を移動させる部分だけが”いわゆるハムラ法”として注目されてしまったために、正しい効果を発揮できないことになってしまいました。

支える組織を破壊すると、立て直しが困難です

手術的に脂肪を移動させようとすると、表からにせよ裏(結膜側)からにせよ、瞼板を支えている組織を切ることになります。また、眼窩隔膜を破って脂肪をその外側にはみ出させることは、眼窩脂肪もまた下まぶたを上に向けて支える組織であるという重大な事実を見落としているのではないかと思います。

クッションの布地を破いて綿をはみ出させるならば、クッションはその役割を果たせなくなります。単純に脂肪を移動させようとするならば、そうした危険を冒すことになってしまうのではないでしょうか。

まず上瞼のたるみ取りを考える

下眼瞼の脂肪突出を悪化させる原因の一つに上眼瞼のたるみがあります。
上瞼が弛むと、目を大きく見開くために上眼瞼挙筋が緊張し、それに協調して下瞼を引き下げる力も働くため、外眼筋の全般的な緊張による眼球の後方移動が起こり眼窩脂肪を前に押し出す力が強まります。
また瞼を開けようとする努力が勝つので、目を閉じる筋肉である眼輪筋は逆に弛んで、力が入らなくなります。

上眼瞼のたるみを改善することで、目を開ける力が減少し、下眼瞼を引き上げる眼輪筋の力が強まります。上眼瞼のたるみ取り手術の術後、下眼瞼は何もしていないのに症状がましになる方がたくさんいます。

レーザー治療で皮膚を引き締めてみる

瞼のたるみは一つの原因ではなく、靭帯から皮膚まで様々な組織を構成するコラーゲン線維などが力を失い引き延ばされていくことで起こります。
中でも下眼瞼の皮膚は、非常に薄く伸びやすいのに日常的に様々な力のかかる場所です。マッサージは論外ですが、コンタクトレンズの出し入れや化粧、洗顔によって毎日引き伸ばされています。本来筋肉を鍛えて引き締めるのが最善なのですが、その外側の皮膚を引き締めるという方法はどうでしょうか。

レーザーで皮膚を引き締めるという考え方は、およそ30年前ぐらいに日本で生まれました。その後、主にアメリカで様々な治療機器が開発され、今では日本の美容治療におけるレーザーの主力になってきています。

くわしい理論はさておき、レーザーを適切に照射すると徐々に皮膚のコラーゲンが増え、真皮のネットワークが強化されて皮膚が引き締まります。即効性のある治療ではありませんが、特に副作用もなく繰り返し治療できますので、穏やかな改善を図りたい方に向いています。

大江橋クリニックでは、下瞼限定の治療ではなく、お顔全体の引き締めをすることで改善を図ることをお勧めしています。瞼の皮膚が伸びているということは、皮膚が薄いので目立ちやすいというだけで実際にはお顔、体の皮膚全てが弛んできているはずというのが治療の根拠になっています。

これでうまくいかない場合は、いよいよ手術考えます

下眼瞼の引き締め手術に関しては、この下の方で詳しく書いていきます。

フィラーを凹みに注入する方法の問題点

下眼瞼溝と呼ばれる左図②のあたりにヒアルロン酸を注入して膨らませ、平らにして影ができないようにする注入法がよく行われているようです。ヒアルロン酸は徐々に減少しますので繰り返さなければならないという煩わしさの他に、この治療法にはいくつかのデメリットがあります。繰り返すことにより、皮膚が硬く重くなり、徐々に改善が難しくなってくることもその一つです。最初はいいのですが、2回目には思った位置に入らず凸凹することがあります。
よく最初の先生は上手だったのに、と2番目の医師の悪口を言う患者さんがいますが、難しさが全く違うので技術の巧拙は比較できません。
最も根本的な問題は、ふくらみを平らに戻すのではなく、膨らんだ高さに合わせて周りを膨らませる、という発想の治療ですから、正面から鏡で見たときには一見改善されたように見えても、横から見たときにのっぺりと膨らんだ表情になり、生き生きとした若さが感じられなくなてしまう点です。また、表情筋の上にフィラーがかぶさってしまうので、様々な表情をしたときの自然さが損なわれます。

即効性はありますので、例えば記念撮影をするなどの直前に一時的に改善する、といった目的には許容できますが、あまりお勧めはしていません。

なお、最近は使われなくなってきましたがアクアミドなど永続性をうたったフィラーは、後々問題になることがあり、注入すべきではありません。

フィラーを使うなら、涙袋形成が即効的です

どうしてもヒアルロン酸等を使って即効的に改善を図るのであれば、弛んだ部分の下ではなく上(図の①)に注入して人工的に涙袋を形成する方が自然で効果的です。軽い症状であれば注入量も少なくてすみます。
欠点はこの部分位は細かい血管が多く、注意しても皮下出血を起こしやすいことです。先の尖っていない鈍針を用いたりカニューラ(あるいはカニューレ)と言われるプラスティック製などの細いチューブなどを使う施設もありますが、完全に防ぐことができません。
涙袋の部分の皮膚が盛り上がることによって、それより下の部分の皮膚が少し引き上げられ、わずかですがたるみが軽減されます。

ただし、涙袋は本来の自分の筋肉(眼輪筋)を使って作る方がより自然で表情豊かです。涙袋を作る目的ならば、たるみ取りの手術に合わせて行うのが標準的です。(たるみ取り手術で涙袋がなくなるという情報が出回っていますが、それは筋皮弁法などで瞼板前眼輪筋を切り取ってしまうからで、そうした操作を避ければ涙袋を残し、あるいは強調することができます。)

大江橋クリニックで行う下眼瞼のたるみ取り手術

プチ整形などといってお手軽な切らない治療が好まれるようになったことは、美容手術の門戸を広げたという点では評価されるべきでしょう。ただし、お手軽な治療は、期待ほどの効果がない、ということも医師はきっちりと説明すべきでしょう。

脂肪を抜いたり、くぼみにしき込んだりしてできることは限られていますし、その効果もたいていは1年以内に失われてしまう一時的なものです。確かにダウンタイム(人前に出づらい期間)は短くてすむかもしれませんが、そうした簡便な方法では改善できない症状もたくさんあります。

ダウンタイムは長めに見ておきましょう

大江橋クリニックでは、下瞼の手術をするときは、まつげの生え際から2〜3ミリのラインを目尻の外側まで長く切開します。ちなみにこの切開線は、(切った以上は消えてなくなることはありませんが)通常他人がみても気づかれないくらいにきれいになおる場合がほとんどです。

たるみが気になるくらいの症状であれば、皮膚の緊張も弱く、ある程度皮膚を切除しても傷が開くことはまずありません。

通常は眼窩下溝のラインまで皮膚を薄く剥離します

皮弁法と言って、皮膚と筋肉を別々に処理する方法をとっています。
筋皮弁法といって、皮膚とその下に付着している眼輪筋を一緒に切開してしまう手術法があり簡単ですが、いろいろと問題があります。最大の問題点は、たるみを取るために筋肉と皮膚を同時に切除するという考え方に立脚している点です。たるみを取るためにすべきことは、筋肉の引き締めであって切除ではありませんし、皮膚も引っ張って切り取りすぎると外反(あかんベエ状態)を来しやすくなります。

下眼瞼の薄い皮膚を筋肉から綺麗に剥がすのは技術と根気が入ります。何よりも皮下組織の中にあるたくさんの細い血管を切ることになるので出血が多く、止血に時間がかかります。それでも細かいものは止血しきれず、止血剤が効いている間は止まっているのですが手術が終了した後に再出血して皮下出血が起こってしまうことが非常にしばしば起こります。と言うより必発です。
したがって術後はボクシングの試合後のように目の周りが赤あざ青あざになって腫れ、落ち着くのに2週間以上かかると思ってください。

どうして皮膚を剥がすのか

皮膚と筋肉、眼窩隔膜、脂肪を別々に扱って、それぞれを収まりの良い場所に戻すのが、将来の変形を防ぎ効果を長持ちさせる方法だと思っているからです。内視鏡手術が流行っているのに開腹手術をするようなものでやや時代遅れかもしれませんが、他の方法にない効果が得られると思っています。

眼輪筋のような表情筋は皮膚と分かち難くくっ付いているので、筋肉だけを引き締めたり、皮膚と筋肉の位置関係を変えたりするのが難しいのですが、あえてそれをすることによって筋肉をきちんと引き締めながら皮膚を引っ張りすぎないで適正な位置に戻すことができ、また皮膚のコラーゲンを増やして弛みにくい肌を作ることが可能になると思っています。

皮膚を剥離したのち、筋肉も眼窩隔膜から剥離します。眼窩隔膜とその中の眼窩脂肪は可能であれば手をつけずにおきます。脂肪がヘルニア状態でどうしても切り取らなければ収まらない場合は最小限で切除します。眼窩隔膜は菲薄化していたり破れていたりして縫って修復しなければならないこともありますが、縫合した傷が皮膚の上から触れるほど硬くなってしまうこともあるので、できる限りそっと平らに残し、凸凹しないようにしておきます。

眼輪筋は目尻の外側でタックを取ります

瞼板前部の眼輪筋はできるだけ瞼板についたまま残し、眼窩部との境目から剥離したいのですが、大きくずり落ちてしまっていることもあります。筋肉全体をできるだけフリーにして耳に近い側に引っ張り、頬がピンと張るように外側でタックを取ります。通常1センチくらいつまめることが多いようです。ヒダは奥の方に落とし込むようにしてタックを糸で縫い縮めます。
この時筋肉が凸凹しないように筋肉を一部切除してしまう医師もいるようですが、眼輪筋の神経支配は耳側から神経が来ているので、不用意に切ってしまうと眼輪筋を麻痺させることになります。切らずにタックして、内側に戻らないように眼窩の骨膜に一部を縫い付けます。
この操作で眼輪筋は瞼板の上に乗り上げます。適当な位置に糸をかけて瞼板と眼輪筋を縫合します。この時にどの程度の量をまとめて瞼板に乗せるかで涙袋の大きさが決まります。

筋肉の処理が終われば皮膚を戻し、引っ張りすぎないように外上方に寄せて切除量を決め、余った皮膚を切り取ります。ほとんどの場合数ミリにとどまり、皮膚のたるみを切除すると言った感じはありません。皮膚を取らずに筋肉を引き締める手術です。

あとは眼輪筋と皮膚がピッタリ密着するようにテーピングを厳重にします。テーピングが甘かったりズレると、筋肉と皮膚の位置がずれて皮下出血が多くなり、回復に時間がかかります。テーピングはもう大丈夫と思えるまで2週間から場合により3ヶ月くらい行います。

まぶたは顔の中でも特にデリケートな部分です。安いからと広告につられたり、経験の少ない医師の実験台にされたりすることのないよう、納得のできる説明をしてくれる医師を選んで手術を受けましょう。

大江橋クリニックの下眼瞼手術は、他の美容外科で行っているものに比べ侵襲が大きく術後の回復に時間がかかると思います。それでもあえて行うのは、それぞれのパーツを分けてきちんと処理することが構造と機能を維持する上で最も大切なことなのではないかと思うからです。
自分ではこの術式をTotal Lower Eyelid Plasty (TLEP)などと名付けていますが、どこにも発表していませんし多分オリジナルというより基本に忠実なだけだろうと思い、宣伝はしていません。
こんな名前にしたのは、ドイツ留学時代鼻の形成を教えていただいたDr. Gubischが、鼻の軟骨を一つ一つバラして良い形に矯正してから組み立てる、先生独特の手術をTotal Rhino-Plasty( TRP)と呼んでおり、毎日の予定表にTRP,TRPという文字が並んでいたのにあやかったものです。
大江橋クリニックの手術予定表にTLEPの文字が並ぶといいなあ、と思ってつけましたが、実際にはこの手術に持ち込む前に、多くの患者さんはレーザーや上眼瞼の手術でかなり改善してしまい、最終手段である手術に頼らなければならない重症の患者さんは数えるほどです。
それも大江橋クリニックの技術の成果だとすれば、手術が少ないのはいいことなのかもしれません。